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ファスト&スロー 第18
章
ー直感的予測の修正ー
堀内 進次
静岡大学 情報学部 情報科学科
2018年7月5日
2018年度読書会
はじめに
2種類の予測
専門家などが下す表や緻密な計算の系統的分析に基づく
予測
直感やシステム1に基づく予測
– 経験によって培われたスキルや専門知識に基づく予測
– 解くべき問題を簡単な問題に置き換え答える予測
回帰を無視する直感
ジュリーは州立大学の4年生です。彼女は4歳のとき文字
をすらすら読むことができました。今のジュリーのGPA
は何点ぐらいでしょうか?
回帰を無視する直感
大体の人が3.7か3.8と答える。
システム1では、
– GPAとの因果関係を探す。→自動的にストーリーを組み立てる
– 入手した情報(4歳で文字がすらすら読める)を標準と比較し評価する。
– 置き換えとレベルあわせが行われる
– 幼少時の読書能力をGPAへ数値化し答える。
回帰を無視した直感
結局
ジュリーの幼少時の読書能力は※パーセンタイル値で表す
とどれくらいか?
ジュリーの現在のGPAはパーセンタイル値で表すとどれ
くらいか?
この二つの全く異なる質問に同じ答えを下すことになる。
※パーセンタイル値
小さいほうから数えたときにそのパーセンテージにある値。(中央値なら50パーセンタイル)
回帰を無視した直感
別の実験
8人の大学新入生についての人物描写を呼んでから能力
評価をしてもらう実験
 8人のどの人物の描写にも次の5つの形容詞が使われている。
頭が良い、自信がある、よく本を読んでいる、勤勉である、知的好奇心に富む
被験者を2つのグループに分け質問をした。
回帰を無視した直感
頭が良い、自信がある、よく本を読んでいる、勤勉である、知的好奇心に富む
第1グループ
 この形容詞を見て新入生はどれくらい優秀だと感じましたか?
 人物描写からもっと優秀な印象を与える新入生は全体の何%いると思います
か?
第2グループ
 この学生は何点ぐらいのGPAを獲得できると思いますか?
 この学生より高いGPAをとる新入生は全体の何%だと思いますか?
回帰を無視した直感
この実験の目的
– 第1グループと第2グループのパーセンタイルの比較
結果は完全に一致した
第2グループは平均への回帰を無視し手元の情報をその
ままGPAの評価に置き換えた
直感的予測の修復
ここでまたジュリーの話
ジュリーは州立大学の4年生です。彼女は4歳のとき文字をすらすら読む ことができま
した。今のジュリーのGPAは何点ぐらいでしょうか?
この問題の正しい解き方
– まず二つの値(読書年齢とGPA)の相関性がどの程度か?決定因(GPA)に対
する共通因(読書年齢)の比率を推測。
– 今回のケースだと約30%(著者曰く)
ここから4つステップを踏む
– 平均GPAの予想
– 手元情報(読書年齢)に対する自分の印象につりあうGPAの決定
– 手元情報とGPAの相関性を推定(ここだと30%)
– 相関係数=0.3とし平均GPAから30%近づいた数値を最終推定値とする
極端な予測も悪くない?
直感的な予測を修正するのはシステム2の役割である
– 相当な努力を要する。
– バイアスがかかっていない。
バイアスがかかっていなければ極端な予測はできない
– 極端なケースを的中させたときの満足感を得られない。
例えば、ベンチャーキャピタリストなどは極端なケース
を的中させることにある。そのためなら、凡庸なスター
トアップを過大評価しコストをかけるのもやむなし。
まとめ
直感だけの予測は他の問題に置き換えられていることが
多い。
システム2を働かせればバイアスを排除し誤差の少ない予
測ができる
極端な予測は場合によっては必要?楽しめる?

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Editor's Notes

  • #3: チェスや将棋などの名人が挙げられる 直感の2つ目は1つ目と区別できないケースもある。平均への回帰が乏しいにもかかわらず自信満々に応える
  • #5: 読書能力もGPAも知的能力に関係するといった関連性が必要であってつり大会で優勝とか重量挙げの選手とかは意味を持たない。 因果関係が見つかると「見たもの全て」が発動しストーリーを組み立てる 4歳で文字がすらすら読めるのは全体のどのくらいの順位にいるのか。 質問されているのはGPAであるが幼少時の読書能力に置き換わる レベルあわせーちがう分野の度合いをそろえる
  • #6: 最初に得た情報と質問をもとに一貫性のある回答に落ち着く
  • #8: 第1グループの質問には上位15%以内には入りそうだが3%以下には入りそうにない。手元の情報の評価 理由:もっと形容詞を強める余地がある。「頭がよい」→「才気あふれる、想像性豊か」、「よく本を読む」→「驚くほど教養がある」etc. この二組の質問の異なる点には注意する必要がある。GPAすなわち1年後の予測であるため不確実性を伴う。 この実験の目的 1グループと2グループのパーセンタイルの比較。→完全に一致
  • #9: 何のためにこの実験をやっているのか ジュリーのケースと同じく手元の情報と将来予測の評価とが区別されていない。 問われた筆問と異なる答えをだしていることにきづかない このように回帰を無視した直感をあたりまえのようにつかっている
  • #10: 平均への回帰をしっかりしているためこのアプローチはたいていの予測に応用が利く。 今日調子が良かった選手が明日も調子が良いというバイアスが排除される。 バイアスが排除されても予測の誤りが残るが誤差は少なくなる
  • #11: 該当するカテゴリの基準予測を行い、与えられた情報の信頼性を評価することは努力が必要 そのため、絶対に誤りを犯せない状況や、かかっているものがおおきいときにつかう。 ある程度不確実性の範囲を予測して資金を投じる