SlideShare a Scribd company logo
本資料はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
ISECON2024
1
事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ
1. ワークショップ開発の背景
2. ワークショップ開発までのプロセス
3. ワークショップの紹介
4. ワークショップの実践・評価
5. まとめ
江川 琢雄・伊勢 一也・神森 大地・宮本 夏美・
吉田 晃佑・森口 雅之・三好きよみ
2025年3月15日
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
本資料について
• 本資料は、一般社団法人 情報処理学会 情報処理教育委員会 情報シス
テム教育委員会主催による第17回情報システム教育コンテスト
(ISECON2024) の本審査用資料を元に再編集されたものです。
• 本資料(江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワーク
ショップ」,ISECON2024, 2025.3.15)は、クリエイティブ・コモンズ表示
4.0 国際ライセンスの下に提供されています。
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
1.ワークショップ開発の背景
• 企業等でのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取組みは年々増加傾向にあり、着実に浸透してきて
いる。
• 特に、事業会社においては、システム開発の内製化に取り組む傾向であり、デジタル人材の存在が不可欠で
ある。
• 事業会社においては、業務への積極関与と情報技術を通じた事業価値創造という視座が重要である。
• 現場でDXを推進する人材は、量と質の両面で、「大幅に不足している」状態が改善されていない。
• 事業会社においては、これまでのように外部のベンダー企業に任せるのではなく、自ら人材を確保するべき
と指摘されている。
• デジタル人材確保の課題の一つとして、人材像や評価基準が明確になっておらず、人材育成についても課題
となっている。
3
1) 事業会社 : IT以外を事業とする企業、ユーザー企業
2) デジタル人材: デジタル技術の活用において、最先端の技術を理解し、活用する能力を持った人材
事業会社1)
のデジタル人材2)
育成のために、情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験でき
るワークショップを開発した。
背景
問題
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
学習する場づくり
業務外で学べるような場所・機会を拡充
普段の業務から離れて自分と向き合うとともに、他人の多様な考
えに触れることで、新たな発見を得る
2.ワークショップ開発までのプロセス
4
● 事業会社・SI企業の従業員 29名に必要なコンピテンシーについてのインタビュー調査
● 質的統合法、テキストマイニングで分析し、事業会社とSI企業とを比較して、事業会社の特徴を抽出
● 文献調査の結果と合わせて、事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシーについて考察
コンピテンシー向上のための具体情報の整備
現場のマネジメント業務を取り上げ、価値観を盛り込む
先駆者の経験を価値観・知識・行動として体系的に学習できる
積極的に周囲を
巻き込む
自らハブとなり他部門や経営
層と密に対話する
ドメイン知識をもとに
ビジネスに貢献する
業務内容の理解を高め、ビジネス全体を
視野に入れて動く
● 仕事や学びへのモチベーショ
ンを高く保つ
会社評価だけでなく、自分の価値を
高めて自己実現
ワークショップ開発
事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシー
これらのコンピテンシー向上のためには
インタビュー調査分析・文献調査
架空プロジェクトを舞台とした教材を作成し、「プロジェクト・シミュレーション・ワークショップ」を開発
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.1 ワークショップの概要
• 事業会社のデジタル人材に必要とされるコンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容を促す。
• 普段の業務制約がない状況で自分と向き合い、他人と議論することで、新たな気づきを得る。グループワークに
よって、多様な価値観に触れるとともに、チーム活動における望ましいふるまいを習得する。
• 情報システムプロジェクトにおいて、事業会社として求められる様々なマネジメントの視点を学習する。
• 事業会社における情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験することで、実際に発生したときに、ス
ムーズな対処を可能とする。
5
• 事業会社で働く、情報システムプロジェクトに携わる従業員を対象にインタビューを実施し、デジタル人材に必要
なコンピテンシーを質的分析によって抽出した結果をもとに開発している。
• 調査分析の結果から、「積極的に周囲を巻き込む」「自社の事業構造や業務知識をもとにビジネスに貢献する」「仕
事や学びへのモチベーションを高く保つ」の3点をワークショップで用いる教材のテーマ設定に取り入れている。
• 情報システムプロジェクトにおける実際の事例をもとに、ストーリーを作成しており、参加者は、現実に近い問題
を疑似体験できる。
• グループワークの前に、ブロックを使って、自己表現と相互理解を行う。それによって、仕事への思いを再認識す
るとともに、ディスカッションをスムーズに行うことが期待できる。
• ワークショップは、事前に資料を配布しておき、当日は2時間半と短い時間で実施できる。
ワークショップの目標
ワークショップの特徴
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.2 ワークショップの構成
6
事前アンケート・事前資料確認
● 仕事に対する意識などの事後アンケート回答
事後アンケート(2~3週間後)
振り返り
直後アンケート
WS満足度アンケート
オープニング・導入
● 仕事に対する意識などの事前アンケート回答
● 事前資料確認(セッション2 ストーリー、注意事項)
セッション1
自己表現と相互理解
セッション2
プロジェクト・
シミュレーション
● (自己紹介タイム)
● 問いにしたがって、ブロックで作品をつくる
● 作品について話す、質問する
● エピソード&設問を提示
● 設問に対して個人で検討した後、グループ討議・グループ発表
● ファシリテーターから解説
● 参加しての気づきを全員で共有(KPT方式)
● 仕事に対する意識などの直後アンケート回答
● ワークショップの運営などへの満足度アンケート回答
30分
75分
30分
途中休憩
10分
● ワークショップのねらいや流れを説明
5分
当日
(150
分)
事後
事前
ワークショップは、セッション1 、セッション2 のグループワークで構成。事前にセッション2の資料を配布する。
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.2 ワークショップの構成
7
1.問い「タワーをつくろう」
①つくる:黒い板と緑と黄色のブロックを使って旗を立てる
②共有する: 工夫したところ、自慢できるところを話す
ねらい:限られたブロックを使っても様々なタワーが出来上がることで他の
人の工夫、自分との違いを知る
2.問い「仕事で活き活きワクワクしている自分」
①つくる: 自由に作品をつくり、タイトルをつける
②共有する: 作品を使って話す、質問する
ねらい:自分の仕事に対する想いを作品で表現し、言語化して共有すること
で自己理解、 相互理解をすすめる
1人1セットのブロックキット(50パーツ)を配布し、ブロックを使って、問
いにしたがって個人で作品をつくり、その後グループで共有する。
実際のワークショップ様子・作品
概要
内容
自己表現と相互理解
30分
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
1. 事前に資料を配布
①エピソード(300文字程度)&設問5択 を3セット提示
②個人で検討 (3問)
③グループで討議(指定された1問)
④グループ発表
⑤解説
①エピソード(800文字程度)&設問を1セット提示
②個人で検討
③グループで討議
④グループ発表
⑤解説
3.2 ワークショップの構成
8
情報システムプロジェクトに関するストーリーの中の問題発生エピソードについて、まず個人で検討、次にグルー
プで検討し、最後にグループで発表する。
エピソードに対する設問は、一問一答方式(タイプA)、自由回答方式(タイプB) の2種類。
概要
内容
事前資料 (注意事項)
ねらい
• 自分と向き合い他人と議論することで、新たな気
づきを得る。
• 多様な価値観に触れるとともに、チーム活動におけ
る望ましいふるまいを習得する。
• 事業会社として求められる様々なマネジメントの視
点を学習する。
プロジェクト・シミュレーション
75分
事前資料 (ストーリー)
一問一答方式(タイプA)
自由回答方式(タイプB)
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
解答にあたっての心構え
• 答えを決める
どの選択肢も捨てがたいものがあるかもしれませんが、答えを出すことが大事です。ベターなものを1つ選び出しましょう。
• あるべき姿で考える
現場にはいろいろ事情があることは承知しています。「そんなこと言われたって・・・」みたいなこともあるかもしれませんが、
そこで思考停止せずに、IT部門のあるべき姿、ありたい姿から考えてみましょう。
• 理由を考える
ワークショップでは個人の回答を持ち寄って、グループとして意見を集約します。意見集約には理由が重要になります。
なぜ自分はそう考えたのか経験などから考えましょう。
当日の設問の進め方
3.3 ワークショップの教材
9
事前資料 (注意事項)
プロジェクト・シミュレーション
グループ討議
発表と解説
個人ワーク • 最初は個人ワークです。エピソードを受けて、主人公が取るべき行動を考えてください。
選択方式の設問は理由も合わせてお答えください。
• チームで個人の解答・選択した理由を共有し、ディスカッションしていただきます。
その上で、チームとしての協議結果を発表していただきます。
• 講師から、各設問への標準解答を提示します。標準解答とはいっても絶対正解というもので
はありません。むしろ、それをたたき台にして幅広い意見交換を行うことに意味があります。
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.3 ワークショップの教材
• A社は首都圏の鉄道会社である。安心と安全を掲げ、都市と郊外を結んで100年以上の歴史を持
ち、単なる移動手段を超えて生活の価値を提供してきた。
• 地域との絆を深め、実直に事業を営んできたA社だが、労働人口の緩やかな減少や、働き方の多様
性が進んでおり、鉄道事業の事業環境は厳しくなりつつあるのも事実である。
• A社は将来を見据え、近年はDXに対して積極的に取り組んでおり、顧客とのデジタル接点を増やす
ためのモバイルアプリの開発、顧客情報の活用に取り組んでいる。
• そのような中で、鉄道利用者向けのモバイルアプリ開発のプロジェクトが立ち上がることになった。
• このアプリは、経路や運賃の検索や駅周辺情報を提供するだけでなく、リアルタイムの走行位置、有
料座席の予約、電子マネー支払いなどを一元管理できる仕様を目指している。
• また内部的には顧客データを一元的に取得・活用し、今後の営業やプロモーション活動に役立てる
ことが想定されている。
10
事前資料 (ストーリー)
• デジタル企画部に所属する梶が谷 美咲が、プロジェクトリーダーとして指揮を執ることになった。梶が谷は新人の頃から持ち前のコミュニケー
ション力と着実なタスク遂行力に定評があり、今回初めてプロジェクトリーダーを任されることになる。
• プロジェクトリーダーは、社内の多岐にわたる部署と連携しながら、プロジェクトを進めていく立場である。利用部門であるカスタマー企画部の
協力が重要なことは言うまでもない。
• システムの開発自体は長年A社と取引をしてきたITベンダーZ社に委託する。Z社は優秀なITベンダーだが、融通の利かないところもあり、適
切なコントロールが必要である。
• 経験豊富なプロジェクトマネージャーの上司、部下となる若手メンバー、さらに、Z社のリーダーがいてプロジェクトをサポートしていく。
• このプロジェクトは、未来の鉄道サービスを支えるアプリの開発を目指している。
• 社内外の様々な部門の力を結集させ、梶が谷は初めてのリーダーをやり抜くことが出来るだろうか? あなたは梶が谷になりきって、この物語
を見事ゴールへ導いて欲しい。
プロジェクト体制
プロジェクト・シミュレーション
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.3 ワークショップの教材
11
① 事業にどこまで踏み込む?
② 業務フローの役割分担
③ 属人化業務の可視化に向けた行動
④ 不明確な要望への対処
⑤ 新技術を活用するような要望への対応
⑥ 下位職に開発経験させるべきか
⑦ メンバー同士のわだかまり
⑧ 新しい業務ツールの導入検討
⑨ 現行システム保守切れ対応
⑩ ベンダー担当者とのコミュニケーション
⑪ 完了基準の粒度の認識
⑫ 開発委託先に対する品質マネジメント
⑬ 業務知識不足の解消の仕方
⑭ メンバーの過負荷状況を打開せよ
⑮ 若手メンバーからの提案への向き合い方
⑯ PJ要員の削減要請
⑰ メンバーの学習意欲とPJでの役割
⑱ システム納期遅れの発覚
⑲ 受け入れテストへの協力
⑳ 仕様変更依頼への対応
㉑ 現場ニーズとオーナー意見との板挟み
㉒ ユーザーから新システム不評の声
㉓ リリース直前でデータ移行の追加要望
エピソード(300文字程度)と設問1問(5択)で構成。全23問。
エピソード(800文字程度)と設問(自由回答)で構成。全4問。
❶ 利用部門のドメイン知識をどこまで身に
つければよいのか
❷ 利用部門からの追加開発要望へどのよう
な観点を持って対処するか
❸ 終らない要件定義への対処
❹ テスト工程で開発要件漏れが発覚、
どのように対応するか
企画 開発(要件定義,設計,製造,単体結合T) 導入(ST,UAT,教育)
企画 開発(要件定義,設計,製造,単体結合T) 導入(ST,UAT,教育)
エピソードは体系的に学習できるよう情報システム開発工程に準じている。
一問一答方式(タイプA)
自由回答方式(タイプB)
プロジェクト・シミュレーション
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
12
カスタマー推進部の長原から、「検討会議でシステム部門から
も意見やアイデアが欲しい」というリクエストが梶が谷に寄せられ
た。しかし、梶が谷は通常業務やアサイン済みのプロジェクトで手が
ふさがっておりそこそこ多忙である。また、事業の詳細についても
十分な知識がない。・・・・・・ (300文字)
A. ・・・・とりあえず部下の沼部くんをボランティア的に派遣しよう。
B. ・・・・業務多忙で、丁重にお断りする。
C. ・・・・自分を含めたメンバーが検討会議に参加する。
D. ・・・・部門間の関係を混乱させ、責任が曖昧になりかねない。
E. ・・・・PJ外のユーザーといたずらに関わりをもつことは効率低下
につながる。
システム部門のリーダーとして最適だと思うものを1つ選び、
その理由をまとめてください。
● 新たなアイデアの創出には多様なバックグラウンドが重要。システ
ム担当や他の部門のメンバーの視点を入れることで新たな発想が
生まれる。
● 会社全体に貢献するスタンスを持つことが、事業会社がシステム部
門を内部化している根源的な理由だということを理解する。
● 早い段階からシステム部門が関与しておくことで、システムの事情
を無視した要件が突然発生するような事態も防ぐことができる。
解答と解説
プロジェクトリーダー梶が谷はどうすべきだろうか?
?
A. 若手の派遣だけでは弱く、ボランティアというのも責任があいまいにな
る。自ら飛び込み、人脈を広げてもらいたい。
B. 頭ごなしに拒否することは勿体ない。機会を逃がさないようにしたい。
C. 正解
D. ユーザーの問題を詳細に理解するには、部門の代表者では役職が高す
ぎる面がある。現場レベルで話すことは非常に有効。
E. 自らの役割を線引きせずに自ら拾いに行く能動的なスタンスが事業会
社のプロジェクトリーダーには求められる。
3.3 ワークショップの教材
具体例)エピソード① 事業にどこまで踏み込む?
一問一答方式(タイプA)
プロジェクト・シミュレーション
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.3 ワークショップの教材
•モバイルアプリの開発が進む中、梶が谷は詳細要件のヒアリングを行っていた。ある日の会議
で、カスタマー推進部から「アプリにAIチャットを搭載して、乗客からの問い合わせに24時間
対応したい」という機能追加の要望が挙がった。
•どうやら競合他社が試行的に導入を始め、プレスリリースを打ったらしい。チャットボットを導
入することで、電話での問い合わせ件数を減らし、顧客対応の効率化を図れる可能性がある。
この取り組みは興味深く、梶が谷も個人的に関心を持った。
•しかし、乗客からの問い合わせ内容は運行情報、遅延、料金、紛失物の対応など多岐にわたっ
ており、正確で迅速な回答が求められる。Z社の奥沢からは、「要件やスコープが具体的でない
ため、正確な見積もりや開発計画が立てられない」と指摘を受けた。
•さらに、AIチャットボットの導入には高度な自然言語処理技術が必要であり、予期せぬ回答の
生成などの問題も報告されている。そのため、開発・テスト期間やコストの増大も懸念された。
•パイロットリリース直前になって、カスタマー推進部から新たな要望が寄せられた。「既にある
別アプリから顧客データを引き継げるようにしてほしい」というものである。
•しかし、そのアプリは限定的な機能しか持たず、顧客データの項目や正確性も十分ではない。
さらに、パスワード設定が甘く、セキュリティポリシーに基づき再設定が必要になる可能性が高
い。
•このアプリを新アプリに統合すると、開発やテストの工数が大幅に増加し、既にタイトなプロ
ジェクトのタイムラインに大きな影響を及ぼすことは確実だ。
•これまでも、カスタマー推進部とのコミュニケーション不足により、要件の漏れや認識のズレが
生じ、プロジェクトは難航していた。梶が谷はこのままではプロジェクト全体の成功が危ぶまれ
ると感じていた。
•梶浦はチームメンバーの沼部や長原、カスタマー推進部の池上とも相談し、現状を打開するた
めの方法を模索し始めた。
13
フェーズを問わず、ユーザー部門から「他社でこんなこと
をやっているらしいけど、うちでもできないか?」といっ
た後付けの機能追加要望や、エンドカスタマーの利便性を
盾にした技術的・セキュリティ面で困難な要求が土壇場で
なされることはよくあります。
しかし、こうした要望を無下に断ってばかりではユーザー
部門との関係が悪化するうえ、新しいテクノロジーへの挑
戦の機会を自ら潰してしまう可能性もあります。
具体例)エピソード❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような観点を持って対処するか
ポイント
• 何をどこまで対応して、あきらめるのはどこか?
• その線引きはどのようなもので、どのような根拠があるか?
• 利用部門にとっても納得のいくロジックになっているか?
ユーザー部門の納得を得つつ、プロジェクト
を成功に導くための具体的な解決策を提案
してください。
?
自由回答方式(タイプB)
プロジェクト・シミュレーション
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
3.3 ワークショップの教材
AIチャットボット
• ベンダーと話をして、見積の中で見積の絶対額と振れ幅が小さい部分と大きくなる部分を特定する。営業担当は、要素技術をうまく細分化で
きなかったり、振れ幅を見積もれないことがあるので、ベンダーのエンジニアに入ってもらうのも手です。ベンダーのエンジニアは営業担当に
遠慮して明確に発言しないこともあるので、エンジニアとしての率直な見解を話してもらえるよう、うまくお膳立てすることも有効な手立て。
• 利用部門と協議し、AIチャットボットで対応すべき具体的な問い合わせ内容を特定し、要件を明確化する。問い合わせの頻度や重要度を分析
し、対応可能な範囲を限定することで、開発のスコープを明確にし、ベンダーから適切な見積を得ることができる。また、AIチャットボット導入
のメリットとリスクを双方で共有し、現実的な目標設定を行う。例えば、頻度は高いが重要度が低い部分はAIチャットに任せるなど。ベンダーに
ヒアリングした実現のためのコストとその振れ幅についても考慮する。大切なのは判断基準をもってより分けること。
既存アプリからのデータ引き継ぎ
• データ品質やセキュリティの懸念点を所管部署に丁寧に説明する。その上で、統合による開発工数の増加やタイムラインへの影響を具体的な数
値で示し、プロジェクト全体のリスクを共有する。多くの場合、利用部門はお客様からの表層的なクレームを気にしがちで、リスクを過小評価す
ることがある。
• 万一、アカウント乗っ取りなどのセキュリティインシデントが起これば、お客様に多大な迷惑をかけることもあり得える。多頻度の小さなクレー
ムと、低頻度の重大問題との天秤を意識すること。また、利用部門と協力して、データクレンジングの手法や段階的な移行プランなど、代替案や
回避策を提案し、要望に可能な限り応える努力を見せることも、関係者の納得感につながる。
• 最終的には、プロジェクトの品質とタイムラインを両立させるために、関係者全員で協力し、最適な解決策を見出すことが重要。コミュニケー
ションを密に取り、全員が同じ目標に向かって進むことで、プロジェクトの成功に繋げる。
14
具体例)エピソード❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような観点を持って対処するか
自由回答方式(タイプB)
プロジェクト・シミュレーション
解答と解説
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
4.1 ワークショップの実践
15
実際のワークショップの様子
❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような
観点を持って対処するか
① 事業にどこまで踏み込む?
⑪ 完了基準の粒度の認識
⑲ 受け入れテストへの協力
利用部門や開発ベンダーとの調整に関して、
疑似体験することで、実務でのスムーズな対処を図る
事業会社A社において、ワークショップを2回開催
• 対象者 : 事業会社A社の情報システムプロジェクトに携わる若手・中堅 20名
• 実践日 : 2024年11月21日(9名)、28日(11名)
• 時間 : 2時間30分
• 場所 : A社会議室での対面方式
自由回答方式(タイプB)
一問一答方式(タイプA)
• 設問
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
4.2 ワークショップの評価
16
Keep (続けたいこと) Try (試したいこと、やりたいこと)
● 事業部門とベンダーに寄り添う考え方をする
● 自分だったらこうするといった考えや、他の人の意
見を聞けて、違う角度から物事を考えられる機会
● 全員で同じ意見となったときに「逆に・・・」で考え、異
なる観点でも意見出しする
● 現地現物主義で考えられたこと
● 限られた情報の中で短時間で判断する
● 要点は何かを意識しながら状況を理解する
● 自社を理解し、幅広く技術的な助言やサポートを行う
● システム部門を内製化する意義を発揮
● 難しい局面で自分だったらどう判断するかを考える
● 部内でもチームを超えて意見収集する
● 利用部門の人とグループワークしてみたい
Problem (よくなかったこと、いけてないこと)
● メンバーの視点が似ており意見不一致起きず討論
にならなかった
● 不確実要素が多い課題に対して解決策を示すスピー
ドに課題あり
● プロジェクトマネジメントの知識・経験の不足
● 組織のビジョンやミッションが明文化されておらず
上位からの落とし込む思考が出来なかった
参加者の振り返り(KPT) (抜粋)
✔ 自身の特性、組織への思いや他人とのディス
カッションの有用性など、多くの気づきがあった
ことが確認できた
✔ 今後の行動変容が期待できる内容であった
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
4.2 ワークショップの評価
17
満足度アンケート 自由記述欄のテキストマイニング
(n=20)
1. ワークショップ全体について満足できたか
5.0%
2. ディスカッションは有意義だったか
3. 他の人にも勧めたいと思うか
✔ ワークショップに対する満
足度は良好
✔ 具体的な教材への高い評
価を得られた
✔ ディスカッションを深める
ための工夫など率直な感
想も得られた
✔ 自己成長・他者との交流・
実務への応用 の評価が確
認できた
(n=20)
10.0%
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
仕事への意識変容の調査(考え方)
4.2 ワークショップの評価
• 受講前後にアンケート調査を実施し、コンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容を確認した。
• 「事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシー」の3つの課題に関連する既存の尺度・因子を紐づけ、質問項目70問程度で構成した。
18
コンピテンシー 関連する尺度・因子 説明
積極的に周囲を
巻き込む
個人のチームワーク能力尺度
チーム志向能力 チームの目標を優先させ、ほかのメンバーとの対立を避けて調和を重視する能力
バックアップ能力 メンバーを励ましたり、実際的な助言や助力を提供する能力
モニタリング能力 チームの現状やメンバーの様子を観察し、自分の行動を状況に応じて調整する能力
リーダーシップ能力 メンバー同士の相互作用を促し、チームの目標を達成するよう働きかける能力
主張 ほかのメンバーに同調せず、自分の意見をいえる/嫌なことははっきりと嫌と言える
ジョブ・クラフティング尺度 関係クラフティング 仕事を通じて人と積極的に関わる
ドメイン知識を
もとにビジネス
に貢献する
自己調整方略尺度 自らのモチベーションを調整しながら自律的に働く方略を行っているかを測る尺度
ジョブ・クラフティング尺度 タスククラフティング 必要と感じれば新たな仕事を自分の仕事に加える
仕事や学びへ
のモチベーショ
ンを高く保つ
ワークエンゲージメント 仕事に積極的に向かい活力を得ている状態かどうかについて測定する尺度
自己効力感 日常生活で「だいたいのことはできる」と感じる
自己肯定感 個人が自己をどれだけ肯定的に捉えているか
自己理解 自分をどれだけ理解しているか
ジョブ・クラフティング尺度 認知クラフティング 自分の担当する仕事を見つめ直すことによってやりがいのある仕事に見立てる
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
4.2 ワークショップの評価
受講前後のアンケート結果から、コンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容が確認された。
19
仕事への意識変容の調査(結果)
コンピテンシー 関連する因子 評価
積極的に周囲
を巻き込む 個人のチームワー
ク能力
(チーム志向※
)
(バックアップ※
)(リーダーシップ※
)
(モニタリング)(主張)
ジョブ・クラフティング(関係クラフティング)
ドメイン知識を
もとにビジネス
に貢献する
自己調整方略
(目標焦点化※
)
(モニタリング)(タスク意識化)(メリハリ)
ジョブ・クラフティング(タスククラフティング)
仕事や学びへ
のモチベーショ
ンを高く保つ
ワークエンゲージメント(活力)(熱意※
)(没頭)
自己効力感※
・自己理解※
自己肯定感
(自己受容※
)(充実感)
(自己実現的態度)
ジョブ・クラフティング(認知クラフティング)
向上 ほぼ変わらず 低下
※回答を尺度に応じて得点化し、対応のあるt検定による統計的な分析の結果、10%有意差があった因子
✔ 積極的に周囲を巻き込む
✔ ドメイン知識をもとにビジネスに貢献する
向上/低下の因子のどちらも含み、一定の効
果は見られた。継続してフォローアップする
ことでより高い効果が期待できる。
✔ 仕事や学びへのモチベーションを高く保つ
多くの因子で向上が見られ、特に自己効力
感の因子が大きく向上しており、効果が現
れていると考えられる。
✔ ジョブ・クラフティング
仕事に対する捉え方や行動を自ら変えることで、やり
がいのある仕事に作り変えていく
有意差はないが、各因子の平均値は向上
しており、効果があると考えられる。
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
4.2 ワークショップの評価
20
ワークショップ実施1ヶ月後に、A社の管理職に対して参加者の受講後の様子をヒアリング。
一部の参加者では意識が高まり、行動に変化が見られるとのことであった。
参加者のワークショップ後の様子
コンピテンシー 具体的な行動例
積極的に周囲
を巻き込む
● 業務にて最近役割レベルが上がることになり、リード役としての責任感が増している
● エンジニア気質のところがあったが利用部門に寄り添うような言動が見られるように
なった
ドメイン知識を
もとにビジネス
に貢献する
● 新たなプロジェクトのリーダにアサインしたところ、すぐに自らの課題を述べ、ビジネス
要件の精緻化に向けて利用部門と踏み込んだ議論の必要性を進言してきた
● チーム内で自分たちIT担当が社内にいる意義を議論する際に、ファシリテーターの解
説を客観的な意見として引用している
仕事や学びへ
のモチベーショ
ンを高く保つ
● 業務の中で新しい仕事を依頼した際、目的だったり自分への期待について繰り返し質
問し、理解を深めていた
ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15
5. まとめ
21
• 事業会社におけるデジタル人材に必要なコンピテンシーについて、様々な定義や指標は
あるものの、実態にあっていなかったり、具体化が十分でなかったりしている。
• デジタル人材に必要なコンピテンシーをインタビュー調査結果から抽出し、それらのコン
ピテンシー向上のためには、具体情報の整備と学習する場づくりが必要と考えた。
• そこで、情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験できるワークショップを開発した。
• 事業会社A社の情報システムプロジェクトに携わる若手中堅20名を対象にワークショップを実施した。
背景
ワークショッ
プ開発
実践
評価
• ワークショップを誰でも開催できるよう、教材および運営についてガイドブックにまとめる。
• 実践の結果、以下のことから、ワークショップの目標は概ね達成されたと考える。
• ワークショップの振り返り(KPT)からは、多くの気づきが確認された。
• ワークショップ満足度アンケートでは、ワークショップへの高い満足度が得られていた。
自由記述からは、具体的な教材への高い評価が確認された。
• ワークショップ受講前後で、仕事への意識変容が確認された。平均値が下がった因子もあったが、ワーク
ショップ受講によって自己理解が深まったことによると推測される。
• 1ヶ月後に実施した参加者の上司へのヒアリングから、業務での行動変容を確認できた。
今後

More Related Content

PDF
システム開発プロセスの実践的学修
PDF
Office365での視覚障害者自立・就労訓練のための学習支援システムの構築
PDF
サイエンスとプログラミングを 合わせた小中学生向け教育の実践
PDF
テレワーク環境でのコンフリクトを疑似体験するワークショップ(情報処理学会ISECON2023)
PDF
職種研究ワークショップを通したIT人材育成の取組み
PDF
社会システムの分解と理解で学ぶ教育手法「ReBaLe」の提案
PDF
ISECON2015 座学と演習の反復による教育の効果を最大化する実課題 PBL
PDF
「スマートエスイー」におけるスマートシステム&サービスおよびDX推進人材の産学連携育成ならびに参照モデルに基づく育成プログラム分析
システム開発プロセスの実践的学修
Office365での視覚障害者自立・就労訓練のための学習支援システムの構築
サイエンスとプログラミングを 合わせた小中学生向け教育の実践
テレワーク環境でのコンフリクトを疑似体験するワークショップ(情報処理学会ISECON2023)
職種研究ワークショップを通したIT人材育成の取組み
社会システムの分解と理解で学ぶ教育手法「ReBaLe」の提案
ISECON2015 座学と演習の反復による教育の効果を最大化する実課題 PBL
「スマートエスイー」におけるスマートシステム&サービスおよびDX推進人材の産学連携育成ならびに参照モデルに基づく育成プログラム分析

Similar to 事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ(情報処理学会ISECON2024) (20)

PDF
地方のIT勉強会と産・学・官との連携 (せきゅぽろ)
PDF
オンライン教育サービスにおけるデータ活用方法
PDF
地方自治体職員を対象としたeラーニングによるDX人材育成(情報処理学会ISECON2023)
PPTX
GaiaX company_profile_for_newbies
PDF
NIIpotal_tokyo(20120822)
PPTX
オンライン教育の展望:高等教育のデジタル化とリカレント教育の普及
PDF
【ネットラーニング】Jset 内田洋行セミナー20170331
PDF
Microsoft in Action! - COVID19への取り組み、これから皆様とできること。
PDF
ソフトウェアエンジニアリング知識体系SWEBOK最新動向
PDF
ITフォーラム2025 先端IT活用推進コミュニティ セッション2:オープンラボの取り組み
PDF
Data × AI でどんな業務が改善できる? ​製造業様向け Data × AI 活用ユースケース & 製造MVPソリューションのご紹介
PPTX
2014-07-19 日本情報科教育学会 第7回全国大会 プロジェクト管理手法を活用した問題解決指導法開発のための予備実践
PDF
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
PDF
Onlab presentation 072412
PDF
非情報系学生を対象としたソフトウェア開発演習の設計と継続的改善
PDF
卒業生・企業人・教員のチームティーチングによる実践的ICT人材育成教育
PDF
PHPとブロックチェーンを使ったwebアプリ開発
PDF
「企業のデジタルトランスフォーメーション ビッグデータ利活用に関する活動と課題」
PPTX
DLLAB_Healthcare-Day_2022.pptx
PDF
株式会社ジール_採用ピッチ資料(2025.7.1)_zeal reuruitment pitch
地方のIT勉強会と産・学・官との連携 (せきゅぽろ)
オンライン教育サービスにおけるデータ活用方法
地方自治体職員を対象としたeラーニングによるDX人材育成(情報処理学会ISECON2023)
GaiaX company_profile_for_newbies
NIIpotal_tokyo(20120822)
オンライン教育の展望:高等教育のデジタル化とリカレント教育の普及
【ネットラーニング】Jset 内田洋行セミナー20170331
Microsoft in Action! - COVID19への取り組み、これから皆様とできること。
ソフトウェアエンジニアリング知識体系SWEBOK最新動向
ITフォーラム2025 先端IT活用推進コミュニティ セッション2:オープンラボの取り組み
Data × AI でどんな業務が改善できる? ​製造業様向け Data × AI 活用ユースケース & 製造MVPソリューションのご紹介
2014-07-19 日本情報科教育学会 第7回全国大会 プロジェクト管理手法を活用した問題解決指導法開発のための予備実践
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
Onlab presentation 072412
非情報系学生を対象としたソフトウェア開発演習の設計と継続的改善
卒業生・企業人・教員のチームティーチングによる実践的ICT人材育成教育
PHPとブロックチェーンを使ったwebアプリ開発
「企業のデジタルトランスフォーメーション ビッグデータ利活用に関する活動と課題」
DLLAB_Healthcare-Day_2022.pptx
株式会社ジール_採用ピッチ資料(2025.7.1)_zeal reuruitment pitch
Ad

More from 情報処理学会 情報システム教育委員会 (15)

PDF
実配線体験が可能な論理回路シミュレータの開発とその評価(情報処理学会ISECON2023)
PDF
PCに依存しない幼児・低学年の プログラミング教育カリキュラム
PDF
ゲームを用いた疑似体験によるシステムデザインの導入教育
PDF
簡易的IoTプロトタイプ構築を通したSTEAM教育講座の開発
PDF
プログラミングロボットを用いたオンライン併用型の協調学習実践
PDF
遠隔演習環境の開発と運用を通したプログラミング教育の改革
PDF
オープンデータ観光アプリ開発を題材とした発展的多学年PBL
PDF
社会人向けサイバーセキュリティ講座「セキュアシステム設計・開発」の実践
PDF
1人1台情報端末時代に向けた小学校英語教材オンライン化の取組
PDF
大学における地域連携型社会実装PBLのカリキュラムデザイン
PDF
企業と連携した情報システム企画の実践的教育取り組み、改善とその評価
PDF
アルゴリズムのハードウェア化から学ぶ問題解決教育プログラム
PDF
産学連携による実践的プログラミング教育
PDF
PBLにおいて学び合いを引き出す組織的メンタリング
PPTX
ISECON2015 キュレーション学修法を用いた能動的学修スキルの育成
実配線体験が可能な論理回路シミュレータの開発とその評価(情報処理学会ISECON2023)
PCに依存しない幼児・低学年の プログラミング教育カリキュラム
ゲームを用いた疑似体験によるシステムデザインの導入教育
簡易的IoTプロトタイプ構築を通したSTEAM教育講座の開発
プログラミングロボットを用いたオンライン併用型の協調学習実践
遠隔演習環境の開発と運用を通したプログラミング教育の改革
オープンデータ観光アプリ開発を題材とした発展的多学年PBL
社会人向けサイバーセキュリティ講座「セキュアシステム設計・開発」の実践
1人1台情報端末時代に向けた小学校英語教材オンライン化の取組
大学における地域連携型社会実装PBLのカリキュラムデザイン
企業と連携した情報システム企画の実践的教育取り組み、改善とその評価
アルゴリズムのハードウェア化から学ぶ問題解決教育プログラム
産学連携による実践的プログラミング教育
PBLにおいて学び合いを引き出す組織的メンタリング
ISECON2015 キュレーション学修法を用いた能動的学修スキルの育成
Ad

Recently uploaded (10)

PDF
「なぜ、好きなことにいつかは飽きるの?」大塚莉子 - My Inspire High Award 2024.pdf
PDF
8_「世の中の流行はどのようにして生まれるのか」学校法人聖ドミニコ学園竹野はるいpptx.pdf
PDF
7_「なぜ人は他人と違うところがあってもそれをなかなか誇れないのか?」明治大学付属中野八王子中学校宮本ゆりかさん.pdf
PPT
日本語test日本語test日本語test日本語test日本語test日本語test.ppt
PDF
3_「本当の『悪者』って何?」鷗友学園女子中学校_福島 雪乃さんinspirehigh.pdf
PDF
6_「老いることは不幸なこと?」植草学園大学附属高等学校森 珠貴さんinspirehigh.pdf
PDF
外国人が日本のテーブルマナーに驚く理由は?_公文国際学園高等部 角田 恵梨佳さん
PDF
My Inspire High Award 2024(岡田秀幸).pptx.pdf
PDF
9_前田音葉さん:「Yakushima Islandってなんか変じゃない?」.pdf
PDF
5_「AIと仲良くなるには?」日本大学東北高等学校南梨夢乃さんinspirehigh.pdf
「なぜ、好きなことにいつかは飽きるの?」大塚莉子 - My Inspire High Award 2024.pdf
8_「世の中の流行はどのようにして生まれるのか」学校法人聖ドミニコ学園竹野はるいpptx.pdf
7_「なぜ人は他人と違うところがあってもそれをなかなか誇れないのか?」明治大学付属中野八王子中学校宮本ゆりかさん.pdf
日本語test日本語test日本語test日本語test日本語test日本語test.ppt
3_「本当の『悪者』って何?」鷗友学園女子中学校_福島 雪乃さんinspirehigh.pdf
6_「老いることは不幸なこと?」植草学園大学附属高等学校森 珠貴さんinspirehigh.pdf
外国人が日本のテーブルマナーに驚く理由は?_公文国際学園高等部 角田 恵梨佳さん
My Inspire High Award 2024(岡田秀幸).pptx.pdf
9_前田音葉さん:「Yakushima Islandってなんか変じゃない?」.pdf
5_「AIと仲良くなるには?」日本大学東北高等学校南梨夢乃さんinspirehigh.pdf

事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ(情報処理学会ISECON2024)

  • 1. 本資料はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。 ISECON2024 1 事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ 1. ワークショップ開発の背景 2. ワークショップ開発までのプロセス 3. ワークショップの紹介 4. ワークショップの実践・評価 5. まとめ 江川 琢雄・伊勢 一也・神森 大地・宮本 夏美・ 吉田 晃佑・森口 雅之・三好きよみ 2025年3月15日
  • 2. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 本資料について • 本資料は、一般社団法人 情報処理学会 情報処理教育委員会 情報シス テム教育委員会主催による第17回情報システム教育コンテスト (ISECON2024) の本審査用資料を元に再編集されたものです。 • 本資料(江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワーク ショップ」,ISECON2024, 2025.3.15)は、クリエイティブ・コモンズ表示 4.0 国際ライセンスの下に提供されています。
  • 3. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 1.ワークショップ開発の背景 • 企業等でのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取組みは年々増加傾向にあり、着実に浸透してきて いる。 • 特に、事業会社においては、システム開発の内製化に取り組む傾向であり、デジタル人材の存在が不可欠で ある。 • 事業会社においては、業務への積極関与と情報技術を通じた事業価値創造という視座が重要である。 • 現場でDXを推進する人材は、量と質の両面で、「大幅に不足している」状態が改善されていない。 • 事業会社においては、これまでのように外部のベンダー企業に任せるのではなく、自ら人材を確保するべき と指摘されている。 • デジタル人材確保の課題の一つとして、人材像や評価基準が明確になっておらず、人材育成についても課題 となっている。 3 1) 事業会社 : IT以外を事業とする企業、ユーザー企業 2) デジタル人材: デジタル技術の活用において、最先端の技術を理解し、活用する能力を持った人材 事業会社1) のデジタル人材2) 育成のために、情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験でき るワークショップを開発した。 背景 問題
  • 4. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 学習する場づくり 業務外で学べるような場所・機会を拡充 普段の業務から離れて自分と向き合うとともに、他人の多様な考 えに触れることで、新たな発見を得る 2.ワークショップ開発までのプロセス 4 ● 事業会社・SI企業の従業員 29名に必要なコンピテンシーについてのインタビュー調査 ● 質的統合法、テキストマイニングで分析し、事業会社とSI企業とを比較して、事業会社の特徴を抽出 ● 文献調査の結果と合わせて、事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシーについて考察 コンピテンシー向上のための具体情報の整備 現場のマネジメント業務を取り上げ、価値観を盛り込む 先駆者の経験を価値観・知識・行動として体系的に学習できる 積極的に周囲を 巻き込む 自らハブとなり他部門や経営 層と密に対話する ドメイン知識をもとに ビジネスに貢献する 業務内容の理解を高め、ビジネス全体を 視野に入れて動く ● 仕事や学びへのモチベーショ ンを高く保つ 会社評価だけでなく、自分の価値を 高めて自己実現 ワークショップ開発 事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシー これらのコンピテンシー向上のためには インタビュー調査分析・文献調査 架空プロジェクトを舞台とした教材を作成し、「プロジェクト・シミュレーション・ワークショップ」を開発
  • 5. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.1 ワークショップの概要 • 事業会社のデジタル人材に必要とされるコンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容を促す。 • 普段の業務制約がない状況で自分と向き合い、他人と議論することで、新たな気づきを得る。グループワークに よって、多様な価値観に触れるとともに、チーム活動における望ましいふるまいを習得する。 • 情報システムプロジェクトにおいて、事業会社として求められる様々なマネジメントの視点を学習する。 • 事業会社における情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験することで、実際に発生したときに、ス ムーズな対処を可能とする。 5 • 事業会社で働く、情報システムプロジェクトに携わる従業員を対象にインタビューを実施し、デジタル人材に必要 なコンピテンシーを質的分析によって抽出した結果をもとに開発している。 • 調査分析の結果から、「積極的に周囲を巻き込む」「自社の事業構造や業務知識をもとにビジネスに貢献する」「仕 事や学びへのモチベーションを高く保つ」の3点をワークショップで用いる教材のテーマ設定に取り入れている。 • 情報システムプロジェクトにおける実際の事例をもとに、ストーリーを作成しており、参加者は、現実に近い問題 を疑似体験できる。 • グループワークの前に、ブロックを使って、自己表現と相互理解を行う。それによって、仕事への思いを再認識す るとともに、ディスカッションをスムーズに行うことが期待できる。 • ワークショップは、事前に資料を配布しておき、当日は2時間半と短い時間で実施できる。 ワークショップの目標 ワークショップの特徴
  • 6. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.2 ワークショップの構成 6 事前アンケート・事前資料確認 ● 仕事に対する意識などの事後アンケート回答 事後アンケート(2~3週間後) 振り返り 直後アンケート WS満足度アンケート オープニング・導入 ● 仕事に対する意識などの事前アンケート回答 ● 事前資料確認(セッション2 ストーリー、注意事項) セッション1 自己表現と相互理解 セッション2 プロジェクト・ シミュレーション ● (自己紹介タイム) ● 問いにしたがって、ブロックで作品をつくる ● 作品について話す、質問する ● エピソード&設問を提示 ● 設問に対して個人で検討した後、グループ討議・グループ発表 ● ファシリテーターから解説 ● 参加しての気づきを全員で共有(KPT方式) ● 仕事に対する意識などの直後アンケート回答 ● ワークショップの運営などへの満足度アンケート回答 30分 75分 30分 途中休憩 10分 ● ワークショップのねらいや流れを説明 5分 当日 (150 分) 事後 事前 ワークショップは、セッション1 、セッション2 のグループワークで構成。事前にセッション2の資料を配布する。
  • 7. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.2 ワークショップの構成 7 1.問い「タワーをつくろう」 ①つくる:黒い板と緑と黄色のブロックを使って旗を立てる ②共有する: 工夫したところ、自慢できるところを話す ねらい:限られたブロックを使っても様々なタワーが出来上がることで他の 人の工夫、自分との違いを知る 2.問い「仕事で活き活きワクワクしている自分」 ①つくる: 自由に作品をつくり、タイトルをつける ②共有する: 作品を使って話す、質問する ねらい:自分の仕事に対する想いを作品で表現し、言語化して共有すること で自己理解、 相互理解をすすめる 1人1セットのブロックキット(50パーツ)を配布し、ブロックを使って、問 いにしたがって個人で作品をつくり、その後グループで共有する。 実際のワークショップ様子・作品 概要 内容 自己表現と相互理解 30分
  • 8. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 1. 事前に資料を配布 ①エピソード(300文字程度)&設問5択 を3セット提示 ②個人で検討 (3問) ③グループで討議(指定された1問) ④グループ発表 ⑤解説 ①エピソード(800文字程度)&設問を1セット提示 ②個人で検討 ③グループで討議 ④グループ発表 ⑤解説 3.2 ワークショップの構成 8 情報システムプロジェクトに関するストーリーの中の問題発生エピソードについて、まず個人で検討、次にグルー プで検討し、最後にグループで発表する。 エピソードに対する設問は、一問一答方式(タイプA)、自由回答方式(タイプB) の2種類。 概要 内容 事前資料 (注意事項) ねらい • 自分と向き合い他人と議論することで、新たな気 づきを得る。 • 多様な価値観に触れるとともに、チーム活動におけ る望ましいふるまいを習得する。 • 事業会社として求められる様々なマネジメントの視 点を学習する。 プロジェクト・シミュレーション 75分 事前資料 (ストーリー) 一問一答方式(タイプA) 自由回答方式(タイプB)
  • 9. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 解答にあたっての心構え • 答えを決める どの選択肢も捨てがたいものがあるかもしれませんが、答えを出すことが大事です。ベターなものを1つ選び出しましょう。 • あるべき姿で考える 現場にはいろいろ事情があることは承知しています。「そんなこと言われたって・・・」みたいなこともあるかもしれませんが、 そこで思考停止せずに、IT部門のあるべき姿、ありたい姿から考えてみましょう。 • 理由を考える ワークショップでは個人の回答を持ち寄って、グループとして意見を集約します。意見集約には理由が重要になります。 なぜ自分はそう考えたのか経験などから考えましょう。 当日の設問の進め方 3.3 ワークショップの教材 9 事前資料 (注意事項) プロジェクト・シミュレーション グループ討議 発表と解説 個人ワーク • 最初は個人ワークです。エピソードを受けて、主人公が取るべき行動を考えてください。 選択方式の設問は理由も合わせてお答えください。 • チームで個人の解答・選択した理由を共有し、ディスカッションしていただきます。 その上で、チームとしての協議結果を発表していただきます。 • 講師から、各設問への標準解答を提示します。標準解答とはいっても絶対正解というもので はありません。むしろ、それをたたき台にして幅広い意見交換を行うことに意味があります。
  • 10. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.3 ワークショップの教材 • A社は首都圏の鉄道会社である。安心と安全を掲げ、都市と郊外を結んで100年以上の歴史を持 ち、単なる移動手段を超えて生活の価値を提供してきた。 • 地域との絆を深め、実直に事業を営んできたA社だが、労働人口の緩やかな減少や、働き方の多様 性が進んでおり、鉄道事業の事業環境は厳しくなりつつあるのも事実である。 • A社は将来を見据え、近年はDXに対して積極的に取り組んでおり、顧客とのデジタル接点を増やす ためのモバイルアプリの開発、顧客情報の活用に取り組んでいる。 • そのような中で、鉄道利用者向けのモバイルアプリ開発のプロジェクトが立ち上がることになった。 • このアプリは、経路や運賃の検索や駅周辺情報を提供するだけでなく、リアルタイムの走行位置、有 料座席の予約、電子マネー支払いなどを一元管理できる仕様を目指している。 • また内部的には顧客データを一元的に取得・活用し、今後の営業やプロモーション活動に役立てる ことが想定されている。 10 事前資料 (ストーリー) • デジタル企画部に所属する梶が谷 美咲が、プロジェクトリーダーとして指揮を執ることになった。梶が谷は新人の頃から持ち前のコミュニケー ション力と着実なタスク遂行力に定評があり、今回初めてプロジェクトリーダーを任されることになる。 • プロジェクトリーダーは、社内の多岐にわたる部署と連携しながら、プロジェクトを進めていく立場である。利用部門であるカスタマー企画部の 協力が重要なことは言うまでもない。 • システムの開発自体は長年A社と取引をしてきたITベンダーZ社に委託する。Z社は優秀なITベンダーだが、融通の利かないところもあり、適 切なコントロールが必要である。 • 経験豊富なプロジェクトマネージャーの上司、部下となる若手メンバー、さらに、Z社のリーダーがいてプロジェクトをサポートしていく。 • このプロジェクトは、未来の鉄道サービスを支えるアプリの開発を目指している。 • 社内外の様々な部門の力を結集させ、梶が谷は初めてのリーダーをやり抜くことが出来るだろうか? あなたは梶が谷になりきって、この物語 を見事ゴールへ導いて欲しい。 プロジェクト体制 プロジェクト・シミュレーション
  • 11. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.3 ワークショップの教材 11 ① 事業にどこまで踏み込む? ② 業務フローの役割分担 ③ 属人化業務の可視化に向けた行動 ④ 不明確な要望への対処 ⑤ 新技術を活用するような要望への対応 ⑥ 下位職に開発経験させるべきか ⑦ メンバー同士のわだかまり ⑧ 新しい業務ツールの導入検討 ⑨ 現行システム保守切れ対応 ⑩ ベンダー担当者とのコミュニケーション ⑪ 完了基準の粒度の認識 ⑫ 開発委託先に対する品質マネジメント ⑬ 業務知識不足の解消の仕方 ⑭ メンバーの過負荷状況を打開せよ ⑮ 若手メンバーからの提案への向き合い方 ⑯ PJ要員の削減要請 ⑰ メンバーの学習意欲とPJでの役割 ⑱ システム納期遅れの発覚 ⑲ 受け入れテストへの協力 ⑳ 仕様変更依頼への対応 ㉑ 現場ニーズとオーナー意見との板挟み ㉒ ユーザーから新システム不評の声 ㉓ リリース直前でデータ移行の追加要望 エピソード(300文字程度)と設問1問(5択)で構成。全23問。 エピソード(800文字程度)と設問(自由回答)で構成。全4問。 ❶ 利用部門のドメイン知識をどこまで身に つければよいのか ❷ 利用部門からの追加開発要望へどのよう な観点を持って対処するか ❸ 終らない要件定義への対処 ❹ テスト工程で開発要件漏れが発覚、 どのように対応するか 企画 開発(要件定義,設計,製造,単体結合T) 導入(ST,UAT,教育) 企画 開発(要件定義,設計,製造,単体結合T) 導入(ST,UAT,教育) エピソードは体系的に学習できるよう情報システム開発工程に準じている。 一問一答方式(タイプA) 自由回答方式(タイプB) プロジェクト・シミュレーション
  • 12. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 12 カスタマー推進部の長原から、「検討会議でシステム部門から も意見やアイデアが欲しい」というリクエストが梶が谷に寄せられ た。しかし、梶が谷は通常業務やアサイン済みのプロジェクトで手が ふさがっておりそこそこ多忙である。また、事業の詳細についても 十分な知識がない。・・・・・・ (300文字) A. ・・・・とりあえず部下の沼部くんをボランティア的に派遣しよう。 B. ・・・・業務多忙で、丁重にお断りする。 C. ・・・・自分を含めたメンバーが検討会議に参加する。 D. ・・・・部門間の関係を混乱させ、責任が曖昧になりかねない。 E. ・・・・PJ外のユーザーといたずらに関わりをもつことは効率低下 につながる。 システム部門のリーダーとして最適だと思うものを1つ選び、 その理由をまとめてください。 ● 新たなアイデアの創出には多様なバックグラウンドが重要。システ ム担当や他の部門のメンバーの視点を入れることで新たな発想が 生まれる。 ● 会社全体に貢献するスタンスを持つことが、事業会社がシステム部 門を内部化している根源的な理由だということを理解する。 ● 早い段階からシステム部門が関与しておくことで、システムの事情 を無視した要件が突然発生するような事態も防ぐことができる。 解答と解説 プロジェクトリーダー梶が谷はどうすべきだろうか? ? A. 若手の派遣だけでは弱く、ボランティアというのも責任があいまいにな る。自ら飛び込み、人脈を広げてもらいたい。 B. 頭ごなしに拒否することは勿体ない。機会を逃がさないようにしたい。 C. 正解 D. ユーザーの問題を詳細に理解するには、部門の代表者では役職が高す ぎる面がある。現場レベルで話すことは非常に有効。 E. 自らの役割を線引きせずに自ら拾いに行く能動的なスタンスが事業会 社のプロジェクトリーダーには求められる。 3.3 ワークショップの教材 具体例)エピソード① 事業にどこまで踏み込む? 一問一答方式(タイプA) プロジェクト・シミュレーション
  • 13. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.3 ワークショップの教材 •モバイルアプリの開発が進む中、梶が谷は詳細要件のヒアリングを行っていた。ある日の会議 で、カスタマー推進部から「アプリにAIチャットを搭載して、乗客からの問い合わせに24時間 対応したい」という機能追加の要望が挙がった。 •どうやら競合他社が試行的に導入を始め、プレスリリースを打ったらしい。チャットボットを導 入することで、電話での問い合わせ件数を減らし、顧客対応の効率化を図れる可能性がある。 この取り組みは興味深く、梶が谷も個人的に関心を持った。 •しかし、乗客からの問い合わせ内容は運行情報、遅延、料金、紛失物の対応など多岐にわたっ ており、正確で迅速な回答が求められる。Z社の奥沢からは、「要件やスコープが具体的でない ため、正確な見積もりや開発計画が立てられない」と指摘を受けた。 •さらに、AIチャットボットの導入には高度な自然言語処理技術が必要であり、予期せぬ回答の 生成などの問題も報告されている。そのため、開発・テスト期間やコストの増大も懸念された。 •パイロットリリース直前になって、カスタマー推進部から新たな要望が寄せられた。「既にある 別アプリから顧客データを引き継げるようにしてほしい」というものである。 •しかし、そのアプリは限定的な機能しか持たず、顧客データの項目や正確性も十分ではない。 さらに、パスワード設定が甘く、セキュリティポリシーに基づき再設定が必要になる可能性が高 い。 •このアプリを新アプリに統合すると、開発やテストの工数が大幅に増加し、既にタイトなプロ ジェクトのタイムラインに大きな影響を及ぼすことは確実だ。 •これまでも、カスタマー推進部とのコミュニケーション不足により、要件の漏れや認識のズレが 生じ、プロジェクトは難航していた。梶が谷はこのままではプロジェクト全体の成功が危ぶまれ ると感じていた。 •梶浦はチームメンバーの沼部や長原、カスタマー推進部の池上とも相談し、現状を打開するた めの方法を模索し始めた。 13 フェーズを問わず、ユーザー部門から「他社でこんなこと をやっているらしいけど、うちでもできないか?」といっ た後付けの機能追加要望や、エンドカスタマーの利便性を 盾にした技術的・セキュリティ面で困難な要求が土壇場で なされることはよくあります。 しかし、こうした要望を無下に断ってばかりではユーザー 部門との関係が悪化するうえ、新しいテクノロジーへの挑 戦の機会を自ら潰してしまう可能性もあります。 具体例)エピソード❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような観点を持って対処するか ポイント • 何をどこまで対応して、あきらめるのはどこか? • その線引きはどのようなもので、どのような根拠があるか? • 利用部門にとっても納得のいくロジックになっているか? ユーザー部門の納得を得つつ、プロジェクト を成功に導くための具体的な解決策を提案 してください。 ? 自由回答方式(タイプB) プロジェクト・シミュレーション
  • 14. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 3.3 ワークショップの教材 AIチャットボット • ベンダーと話をして、見積の中で見積の絶対額と振れ幅が小さい部分と大きくなる部分を特定する。営業担当は、要素技術をうまく細分化で きなかったり、振れ幅を見積もれないことがあるので、ベンダーのエンジニアに入ってもらうのも手です。ベンダーのエンジニアは営業担当に 遠慮して明確に発言しないこともあるので、エンジニアとしての率直な見解を話してもらえるよう、うまくお膳立てすることも有効な手立て。 • 利用部門と協議し、AIチャットボットで対応すべき具体的な問い合わせ内容を特定し、要件を明確化する。問い合わせの頻度や重要度を分析 し、対応可能な範囲を限定することで、開発のスコープを明確にし、ベンダーから適切な見積を得ることができる。また、AIチャットボット導入 のメリットとリスクを双方で共有し、現実的な目標設定を行う。例えば、頻度は高いが重要度が低い部分はAIチャットに任せるなど。ベンダーに ヒアリングした実現のためのコストとその振れ幅についても考慮する。大切なのは判断基準をもってより分けること。 既存アプリからのデータ引き継ぎ • データ品質やセキュリティの懸念点を所管部署に丁寧に説明する。その上で、統合による開発工数の増加やタイムラインへの影響を具体的な数 値で示し、プロジェクト全体のリスクを共有する。多くの場合、利用部門はお客様からの表層的なクレームを気にしがちで、リスクを過小評価す ることがある。 • 万一、アカウント乗っ取りなどのセキュリティインシデントが起これば、お客様に多大な迷惑をかけることもあり得える。多頻度の小さなクレー ムと、低頻度の重大問題との天秤を意識すること。また、利用部門と協力して、データクレンジングの手法や段階的な移行プランなど、代替案や 回避策を提案し、要望に可能な限り応える努力を見せることも、関係者の納得感につながる。 • 最終的には、プロジェクトの品質とタイムラインを両立させるために、関係者全員で協力し、最適な解決策を見出すことが重要。コミュニケー ションを密に取り、全員が同じ目標に向かって進むことで、プロジェクトの成功に繋げる。 14 具体例)エピソード❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような観点を持って対処するか 自由回答方式(タイプB) プロジェクト・シミュレーション 解答と解説
  • 15. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 4.1 ワークショップの実践 15 実際のワークショップの様子 ❷ 利用部門からの追加開発要望へどのような 観点を持って対処するか ① 事業にどこまで踏み込む? ⑪ 完了基準の粒度の認識 ⑲ 受け入れテストへの協力 利用部門や開発ベンダーとの調整に関して、 疑似体験することで、実務でのスムーズな対処を図る 事業会社A社において、ワークショップを2回開催 • 対象者 : 事業会社A社の情報システムプロジェクトに携わる若手・中堅 20名 • 実践日 : 2024年11月21日(9名)、28日(11名) • 時間 : 2時間30分 • 場所 : A社会議室での対面方式 自由回答方式(タイプB) 一問一答方式(タイプA) • 設問
  • 16. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 4.2 ワークショップの評価 16 Keep (続けたいこと) Try (試したいこと、やりたいこと) ● 事業部門とベンダーに寄り添う考え方をする ● 自分だったらこうするといった考えや、他の人の意 見を聞けて、違う角度から物事を考えられる機会 ● 全員で同じ意見となったときに「逆に・・・」で考え、異 なる観点でも意見出しする ● 現地現物主義で考えられたこと ● 限られた情報の中で短時間で判断する ● 要点は何かを意識しながら状況を理解する ● 自社を理解し、幅広く技術的な助言やサポートを行う ● システム部門を内製化する意義を発揮 ● 難しい局面で自分だったらどう判断するかを考える ● 部内でもチームを超えて意見収集する ● 利用部門の人とグループワークしてみたい Problem (よくなかったこと、いけてないこと) ● メンバーの視点が似ており意見不一致起きず討論 にならなかった ● 不確実要素が多い課題に対して解決策を示すスピー ドに課題あり ● プロジェクトマネジメントの知識・経験の不足 ● 組織のビジョンやミッションが明文化されておらず 上位からの落とし込む思考が出来なかった 参加者の振り返り(KPT) (抜粋) ✔ 自身の特性、組織への思いや他人とのディス カッションの有用性など、多くの気づきがあった ことが確認できた ✔ 今後の行動変容が期待できる内容であった
  • 17. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 4.2 ワークショップの評価 17 満足度アンケート 自由記述欄のテキストマイニング (n=20) 1. ワークショップ全体について満足できたか 5.0% 2. ディスカッションは有意義だったか 3. 他の人にも勧めたいと思うか ✔ ワークショップに対する満 足度は良好 ✔ 具体的な教材への高い評 価を得られた ✔ ディスカッションを深める ための工夫など率直な感 想も得られた ✔ 自己成長・他者との交流・ 実務への応用 の評価が確 認できた (n=20) 10.0%
  • 18. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 仕事への意識変容の調査(考え方) 4.2 ワークショップの評価 • 受講前後にアンケート調査を実施し、コンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容を確認した。 • 「事業会社のデジタル人材に必要なコンピテンシー」の3つの課題に関連する既存の尺度・因子を紐づけ、質問項目70問程度で構成した。 18 コンピテンシー 関連する尺度・因子 説明 積極的に周囲を 巻き込む 個人のチームワーク能力尺度 チーム志向能力 チームの目標を優先させ、ほかのメンバーとの対立を避けて調和を重視する能力 バックアップ能力 メンバーを励ましたり、実際的な助言や助力を提供する能力 モニタリング能力 チームの現状やメンバーの様子を観察し、自分の行動を状況に応じて調整する能力 リーダーシップ能力 メンバー同士の相互作用を促し、チームの目標を達成するよう働きかける能力 主張 ほかのメンバーに同調せず、自分の意見をいえる/嫌なことははっきりと嫌と言える ジョブ・クラフティング尺度 関係クラフティング 仕事を通じて人と積極的に関わる ドメイン知識を もとにビジネス に貢献する 自己調整方略尺度 自らのモチベーションを調整しながら自律的に働く方略を行っているかを測る尺度 ジョブ・クラフティング尺度 タスククラフティング 必要と感じれば新たな仕事を自分の仕事に加える 仕事や学びへ のモチベーショ ンを高く保つ ワークエンゲージメント 仕事に積極的に向かい活力を得ている状態かどうかについて測定する尺度 自己効力感 日常生活で「だいたいのことはできる」と感じる 自己肯定感 個人が自己をどれだけ肯定的に捉えているか 自己理解 自分をどれだけ理解しているか ジョブ・クラフティング尺度 認知クラフティング 自分の担当する仕事を見つめ直すことによってやりがいのある仕事に見立てる
  • 19. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 4.2 ワークショップの評価 受講前後のアンケート結果から、コンピテンシー向上の要因となる仕事への意識変容が確認された。 19 仕事への意識変容の調査(結果) コンピテンシー 関連する因子 評価 積極的に周囲 を巻き込む 個人のチームワー ク能力 (チーム志向※ ) (バックアップ※ )(リーダーシップ※ ) (モニタリング)(主張) ジョブ・クラフティング(関係クラフティング) ドメイン知識を もとにビジネス に貢献する 自己調整方略 (目標焦点化※ ) (モニタリング)(タスク意識化)(メリハリ) ジョブ・クラフティング(タスククラフティング) 仕事や学びへ のモチベーショ ンを高く保つ ワークエンゲージメント(活力)(熱意※ )(没頭) 自己効力感※ ・自己理解※ 自己肯定感 (自己受容※ )(充実感) (自己実現的態度) ジョブ・クラフティング(認知クラフティング) 向上 ほぼ変わらず 低下 ※回答を尺度に応じて得点化し、対応のあるt検定による統計的な分析の結果、10%有意差があった因子 ✔ 積極的に周囲を巻き込む ✔ ドメイン知識をもとにビジネスに貢献する 向上/低下の因子のどちらも含み、一定の効 果は見られた。継続してフォローアップする ことでより高い効果が期待できる。 ✔ 仕事や学びへのモチベーションを高く保つ 多くの因子で向上が見られ、特に自己効力 感の因子が大きく向上しており、効果が現 れていると考えられる。 ✔ ジョブ・クラフティング 仕事に対する捉え方や行動を自ら変えることで、やり がいのある仕事に作り変えていく 有意差はないが、各因子の平均値は向上 しており、効果があると考えられる。
  • 20. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 4.2 ワークショップの評価 20 ワークショップ実施1ヶ月後に、A社の管理職に対して参加者の受講後の様子をヒアリング。 一部の参加者では意識が高まり、行動に変化が見られるとのことであった。 参加者のワークショップ後の様子 コンピテンシー 具体的な行動例 積極的に周囲 を巻き込む ● 業務にて最近役割レベルが上がることになり、リード役としての責任感が増している ● エンジニア気質のところがあったが利用部門に寄り添うような言動が見られるように なった ドメイン知識を もとにビジネス に貢献する ● 新たなプロジェクトのリーダにアサインしたところ、すぐに自らの課題を述べ、ビジネス 要件の精緻化に向けて利用部門と踏み込んだ議論の必要性を進言してきた ● チーム内で自分たちIT担当が社内にいる意義を議論する際に、ファシリテーターの解 説を客観的な意見として引用している 仕事や学びへ のモチベーショ ンを高く保つ ● 業務の中で新しい仕事を依頼した際、目的だったり自分への期待について繰り返し質 問し、理解を深めていた
  • 21. ISECON2024 江川 琢雄,「事業会社のデジタル人材育成のためのワークショップ」,ISECON2024, 2025.3.15 5. まとめ 21 • 事業会社におけるデジタル人材に必要なコンピテンシーについて、様々な定義や指標は あるものの、実態にあっていなかったり、具体化が十分でなかったりしている。 • デジタル人材に必要なコンピテンシーをインタビュー調査結果から抽出し、それらのコン ピテンシー向上のためには、具体情報の整備と学習する場づくりが必要と考えた。 • そこで、情報システムプロジェクトで発生する問題を疑似体験できるワークショップを開発した。 • 事業会社A社の情報システムプロジェクトに携わる若手中堅20名を対象にワークショップを実施した。 背景 ワークショッ プ開発 実践 評価 • ワークショップを誰でも開催できるよう、教材および運営についてガイドブックにまとめる。 • 実践の結果、以下のことから、ワークショップの目標は概ね達成されたと考える。 • ワークショップの振り返り(KPT)からは、多くの気づきが確認された。 • ワークショップ満足度アンケートでは、ワークショップへの高い満足度が得られていた。 自由記述からは、具体的な教材への高い評価が確認された。 • ワークショップ受講前後で、仕事への意識変容が確認された。平均値が下がった因子もあったが、ワーク ショップ受講によって自己理解が深まったことによると推測される。 • 1ヶ月後に実施した参加者の上司へのヒアリングから、業務での行動変容を確認できた。 今後