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中国でRubyが靜に浸透中

開始前からコードの世界を手にサインを求めるエンジニア
平日なのに300数十人があつまった。

ある上海近郊の日本企業は、製品のプロトタイプの開発にRubyを使用して実装は C 系の
言語で行っている。平日であるにも関わらず、この会社からは新幹線を 1 時間以上のって 10
名以上のエンジニアが参加した。会議の前日この開発拠点を訪問したMatzは、  「日本語」
で中国人の開発エンジニアとの交流を楽しんだ。

共同スポンサーである米国企業からもお揃いの緑のパーカーをまとった 10 名のエンジニア
が訪中した。


「Pythonの開発者は、中国に一度も来たことがない。Rubyってなんてすごいんだ!
                                         」
とPythonのコミュニティーでも話題になっている!実はRuby VS Python
のコーディングイベントが上海で行われていたりする。

2008年中国初のRuby会議を開催してから 3 年。確実にレベルが向上している。
当初は、Ruby と Rails の違いが理解できていない「おバカな」質問が多かった。
Matzもそういう実感を持ったようだ。

プレゼンの中で一番注目を浴びて、


質問も多かったのは

mrubyについてであった。
次に多かった質問は、Herokuとの関わりについて。

Matzのプレゼンの後は、お馴染みの質問会、50 名弱のエンジニアが一斉に挙手。
今回は北京の「コードの世界」中国版を 20 名限定で、サイン入りコードの世界のプレゼント
会場のボルテージが一気に上がる。

その後は、お馴染みのロックスター並の写真撮影会で、会場が収拾つかないほどに混乱。

中国を代表するエリート校上海交通大学の機械工学選考のエンジニアの質問が印象的。
自分にとってRubyも一言語であり、研究を進める上での道具に過ぎないが、Matzに
とってRubyとは何ですか?という質問。

1. Rubyは、コンピュータに対して、命令をする数ある言語のひとつである。
2. Rubyとは我が子。これから新しく別の言語を開発するつもりはない。Rubyはこ
れからも育てていく。
というMatzの回答が、特に若手のエンジニアに深い感銘を受けていた。

タオバオは、社内管理システムで密かにRubyを使っている。
しかしながら、さすがに中国を代表する企業であるタオバオからの 2 名のスピーカーは、実
際に社内システムのどこにRubyを使っているかは一切言及しなかった。
「コードの世界」中国語版の発売部数は発売 2 ヶ月強で早くも第二版目がリリース。
日本の部数を抜くのも間近とのこと。
著作権方面で、限りなく「オープン」な「ソース」が定着している中国では日本人の IT エン
ジニアが書いた本がここまで売れるのは「過去に例がない」とのこと。
欧米中心の IT エンジニア向けの出版数が多い中で、今後日本のコミュニティーが世に出して
きた本が、広く中国で読まれるかもしれない先鞭を切ったといえる。

また、GFW の関係で、まともにはHerokuが使えない環境の中で、ここまでHero
kuのアーキテクトとして、注目されるのは、真に世界に通用するエンジニアは素直に賞賛
する中国の濃いエンジニア気質の現れといえるだろう。
世界中で「串」指している人口が最も多いのは、中国だろうなというという軽口を叩くエン
ジニアがいた。

相変わらず写真撮影が多くて、大神ぶりを発揮していた。さながら、SMAP もしくは、AKB
のメンバーのようである。今回は、100名以上のサインと、矢継ぎ早の質問と、写真撮影
でMatzも疲労困憊したようだ。

お昼の食事の際の話題は、Matzも碧井空や浜崎あゆみのように中国のマイクロブログ浪
潮でアカウントを作ってはどうかという冗談か本当かわからない話があった。既に周知のこ
とであるがMatzのつぶやきを英語に翻訳しているアカウントはあるので、その中国語バ
ージョンができる日は近いかもしれない。

コードの世界向けの読者インタビューは、日本語の流暢な北京のチューリングが行ったが、
きちんとコードの世界や、その他の日本の記事を熟読し、さらに中国の読者向けに、コード
の世界を紹介しようという丁寧な内容のものだった。

Matzの日本語でのインタビューの模様は、中国語のキャプション付きで、中国国内の動
画サイトに公開予定とのこと。

CSDN のインタビューは、彼らが出版している雑誌に先に商売の関連で掲載され、その後一
部を世界最大の中国語の IT コミュニティーという壮大な名前の CSDN のサイトに公開する
とのこと。彼は中国の IT コミュニティーの中では知らない人はいないりゅう氏「先生」とい
うニックネームをもつ方で、質問の内容もかなり突っ込んだものであった。

一番いいたかったこと。
Rubyには多くの実装がある。
それぞれの目的にあった実装

印象に残ったプレゼン
fiber coroutine 技術的におもしろい話
Intredia OSS のビジネスについて、中国のエンジニアには上手く伝わってなかったようだ。

来年も再び RubyConfChina に来たい。

デバイスの機能が複雑化するに従って、ソフトウェア開発がますます複雑になってきており、
工数の増加、開発期間の長期化、そしてコストの増大が企業にとりプレッシャーになってき
ている。
mruby は、ruby の機能のすべてを含むものではないが、デバイスのコントロールをよりや
さしく複雑な機能を実現することを目指す。
高機能、高価格、小ロットの製品は、ソフトウェアの開発コストを如何に削減するかが課題
となっている。高機能の医療機器、さらには、家電製品、ゲームコンソールなど、同様の課
題を抱える製品の開発をもっと簡単にやさしくすることを目指す。

大人気でしたね。
個人崇拝の強い国かもしれない。その辺は、どうかと思うけど。

某電機は、100名の開発拠点の中に、少なくとも 30 名あまりのエンジニアが Ruby に取り
組んでいる、もしくは理解している。この企業は製品開発に既に90年代後半から取り組ん
でいたため、海外の生産シフトに伴って、中国でもRuby人材の育成が必須となったと思
われる。この企業は、同じ都市にあるRubyコミュニティーの存在を意識していなかった
とのことだったので、今後これまでの実績も踏まえて盛んな交流が行われることであろう。

Rubyの国際化という合言葉で ISO など様々な取り組みがなされているが、同時に各国で
の人材の育成の重要性も増してきている。幸い中国のエンジニアは大卒でも英語に流暢なエ
ンジニアが多いため、Rubyの教育の場合も講師が英語を話せれば、大量のエンジニアが
育成可能である。
しかしながら、Ruby人材を提供できる企業がほとんどないという状況から、自社での育
成が求められる。いいとこ取りは通用しないのである。

プロの通訳ではない、日本語が好きな中国の名門校出身の出版社の女性が行ったあやしい日
本語のインタビューを 40 分、質問の中身を斟酌しながら丁寧に相手に分かるように対応し、
その後間髪を入れず、今度は CSDN の代表者の英語で技術的には突っ込んだ質問を、やはり
丁寧に 30 分以上流暢な英語を駆使している日本人を目の当たりにしたのは初めての経験で
あった。

平日(中国ではなんと独身の日)にも関わらず、予定された300名を上回り、数十名の席
をあわてて用意する事態になったのは嬉しい誤算であった。

今回発表した高度の技術を持つエンジニアをタオバオ、VMwareから引き抜けるだろう
か?答えは NO と言わざるをえない。日本企業でオフショアのエンジニアとして働くモチベ
ーションが彼らにないからである。Rubyを使用している日本企業への注目度は高い。し
かしながら、報酬の水準、責任範囲などが、中国を代表する企業におよばにのである。より
直接的な表現を用いると、入社する魅力に欠けている。

あるエンジニアのコメント
IT の世界は国境がない、歴史や両国政府の関係など関係ない。

政府、もしくは実質会社でも政府の関与が大きい企業が主催しないと中国でイベントを行う
のは容易ではない。
今回は、確かに政府系にもある程度のパイプがある CSDN により行われたが、彼らが主体的
に進めたのではなく上海のRailsコミュニティー、米国企業など様々なスポンサーシッ
プの利害を調整するなど、開催はこれまでのノウハウに関係なく一から取り組んでいる様相
が強かった。
かつて Yehuda Katz などを招いて行った会議の際には、私が大学側と直接会場交渉をしたこ
ともあるが、その時にもルートがないため間に入る人という中国ビジネスでよく見られる人
を介した。中国人といえども何のコネクションもないエンジニアが主体であるコミュニティ
ー側が動くのは難しいのである。

こういった、この国独特のスタンダードがある中で、政府が関係しないイベントで中国人エ
ンジニアが日本人の話を聞くために300数十名が参集する IT イベントは他に例がないで
あろう。

300 数十名の中で、今回日本人は、KEMBO 社から佐々木 CTO と小枝氏の 2 名、上海のフ
リーパーパー BROS 氏から大橋氏というわずか 3 名であった。
平日であることもあるであろうが、  開催に従って日本人比率が下がっている傾向は気になる。
また、スポンサーシップも今回は完全に中国企業と米国企業のみに止まったのは、Ruby
の国際化を示すとともに、日本企業としてはこれだけ感度の高いエンジニアが集まる会議に
PR する機会を大きく失っていると言える。  中国の主要都市にエンジニアを分散させ、    米国本
社と毎日英語による意思疎通を Skype で数時間もとりながらプロジェクトを進めている米国
企業 I ん社と比べると、日本企業の取り組みは残念である。

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  • 1. 中国でRubyが靜に浸透中 開始前からコードの世界を手にサインを求めるエンジニア 平日なのに300数十人があつまった。 ある上海近郊の日本企業は、製品のプロトタイプの開発にRubyを使用して実装は C 系の 言語で行っている。平日であるにも関わらず、この会社からは新幹線を 1 時間以上のって 10 名以上のエンジニアが参加した。会議の前日この開発拠点を訪問したMatzは、 「日本語」 で中国人の開発エンジニアとの交流を楽しんだ。 共同スポンサーである米国企業からもお揃いの緑のパーカーをまとった 10 名のエンジニア が訪中した。 「Pythonの開発者は、中国に一度も来たことがない。Rubyってなんてすごいんだ! 」 とPythonのコミュニティーでも話題になっている!実はRuby VS Python のコーディングイベントが上海で行われていたりする。 2008年中国初のRuby会議を開催してから 3 年。確実にレベルが向上している。 当初は、Ruby と Rails の違いが理解できていない「おバカな」質問が多かった。 Matzもそういう実感を持ったようだ。 プレゼンの中で一番注目を浴びて、 質問も多かったのは mrubyについてであった。 次に多かった質問は、Herokuとの関わりについて。 Matzのプレゼンの後は、お馴染みの質問会、50 名弱のエンジニアが一斉に挙手。 今回は北京の「コードの世界」中国版を 20 名限定で、サイン入りコードの世界のプレゼント 会場のボルテージが一気に上がる。 その後は、お馴染みのロックスター並の写真撮影会で、会場が収拾つかないほどに混乱。 中国を代表するエリート校上海交通大学の機械工学選考のエンジニアの質問が印象的。 自分にとってRubyも一言語であり、研究を進める上での道具に過ぎないが、Matzに とってRubyとは何ですか?という質問。 1. Rubyは、コンピュータに対して、命令をする数ある言語のひとつである。 2. Rubyとは我が子。これから新しく別の言語を開発するつもりはない。Rubyはこ れからも育てていく。 というMatzの回答が、特に若手のエンジニアに深い感銘を受けていた。 タオバオは、社内管理システムで密かにRubyを使っている。 しかしながら、さすがに中国を代表する企業であるタオバオからの 2 名のスピーカーは、実 際に社内システムのどこにRubyを使っているかは一切言及しなかった。
  • 2. 「コードの世界」中国語版の発売部数は発売 2 ヶ月強で早くも第二版目がリリース。 日本の部数を抜くのも間近とのこと。 著作権方面で、限りなく「オープン」な「ソース」が定着している中国では日本人の IT エン ジニアが書いた本がここまで売れるのは「過去に例がない」とのこと。 欧米中心の IT エンジニア向けの出版数が多い中で、今後日本のコミュニティーが世に出して きた本が、広く中国で読まれるかもしれない先鞭を切ったといえる。 また、GFW の関係で、まともにはHerokuが使えない環境の中で、ここまでHero kuのアーキテクトとして、注目されるのは、真に世界に通用するエンジニアは素直に賞賛 する中国の濃いエンジニア気質の現れといえるだろう。 世界中で「串」指している人口が最も多いのは、中国だろうなというという軽口を叩くエン ジニアがいた。 相変わらず写真撮影が多くて、大神ぶりを発揮していた。さながら、SMAP もしくは、AKB のメンバーのようである。今回は、100名以上のサインと、矢継ぎ早の質問と、写真撮影 でMatzも疲労困憊したようだ。 お昼の食事の際の話題は、Matzも碧井空や浜崎あゆみのように中国のマイクロブログ浪 潮でアカウントを作ってはどうかという冗談か本当かわからない話があった。既に周知のこ とであるがMatzのつぶやきを英語に翻訳しているアカウントはあるので、その中国語バ ージョンができる日は近いかもしれない。 コードの世界向けの読者インタビューは、日本語の流暢な北京のチューリングが行ったが、 きちんとコードの世界や、その他の日本の記事を熟読し、さらに中国の読者向けに、コード の世界を紹介しようという丁寧な内容のものだった。 Matzの日本語でのインタビューの模様は、中国語のキャプション付きで、中国国内の動 画サイトに公開予定とのこと。 CSDN のインタビューは、彼らが出版している雑誌に先に商売の関連で掲載され、その後一 部を世界最大の中国語の IT コミュニティーという壮大な名前の CSDN のサイトに公開する とのこと。彼は中国の IT コミュニティーの中では知らない人はいないりゅう氏「先生」とい うニックネームをもつ方で、質問の内容もかなり突っ込んだものであった。 一番いいたかったこと。 Rubyには多くの実装がある。 それぞれの目的にあった実装 印象に残ったプレゼン fiber coroutine 技術的におもしろい話 Intredia OSS のビジネスについて、中国のエンジニアには上手く伝わってなかったようだ。 来年も再び RubyConfChina に来たい。 デバイスの機能が複雑化するに従って、ソフトウェア開発がますます複雑になってきており、 工数の増加、開発期間の長期化、そしてコストの増大が企業にとりプレッシャーになってき ている。
  • 3. mruby は、ruby の機能のすべてを含むものではないが、デバイスのコントロールをよりや さしく複雑な機能を実現することを目指す。 高機能、高価格、小ロットの製品は、ソフトウェアの開発コストを如何に削減するかが課題 となっている。高機能の医療機器、さらには、家電製品、ゲームコンソールなど、同様の課 題を抱える製品の開発をもっと簡単にやさしくすることを目指す。 大人気でしたね。 個人崇拝の強い国かもしれない。その辺は、どうかと思うけど。 某電機は、100名の開発拠点の中に、少なくとも 30 名あまりのエンジニアが Ruby に取り 組んでいる、もしくは理解している。この企業は製品開発に既に90年代後半から取り組ん でいたため、海外の生産シフトに伴って、中国でもRuby人材の育成が必須となったと思 われる。この企業は、同じ都市にあるRubyコミュニティーの存在を意識していなかった とのことだったので、今後これまでの実績も踏まえて盛んな交流が行われることであろう。 Rubyの国際化という合言葉で ISO など様々な取り組みがなされているが、同時に各国で の人材の育成の重要性も増してきている。幸い中国のエンジニアは大卒でも英語に流暢なエ ンジニアが多いため、Rubyの教育の場合も講師が英語を話せれば、大量のエンジニアが 育成可能である。 しかしながら、Ruby人材を提供できる企業がほとんどないという状況から、自社での育 成が求められる。いいとこ取りは通用しないのである。 プロの通訳ではない、日本語が好きな中国の名門校出身の出版社の女性が行ったあやしい日 本語のインタビューを 40 分、質問の中身を斟酌しながら丁寧に相手に分かるように対応し、 その後間髪を入れず、今度は CSDN の代表者の英語で技術的には突っ込んだ質問を、やはり 丁寧に 30 分以上流暢な英語を駆使している日本人を目の当たりにしたのは初めての経験で あった。 平日(中国ではなんと独身の日)にも関わらず、予定された300名を上回り、数十名の席 をあわてて用意する事態になったのは嬉しい誤算であった。 今回発表した高度の技術を持つエンジニアをタオバオ、VMwareから引き抜けるだろう か?答えは NO と言わざるをえない。日本企業でオフショアのエンジニアとして働くモチベ ーションが彼らにないからである。Rubyを使用している日本企業への注目度は高い。し かしながら、報酬の水準、責任範囲などが、中国を代表する企業におよばにのである。より 直接的な表現を用いると、入社する魅力に欠けている。 あるエンジニアのコメント IT の世界は国境がない、歴史や両国政府の関係など関係ない。 政府、もしくは実質会社でも政府の関与が大きい企業が主催しないと中国でイベントを行う のは容易ではない。 今回は、確かに政府系にもある程度のパイプがある CSDN により行われたが、彼らが主体的 に進めたのではなく上海のRailsコミュニティー、米国企業など様々なスポンサーシッ プの利害を調整するなど、開催はこれまでのノウハウに関係なく一から取り組んでいる様相 が強かった。 かつて Yehuda Katz などを招いて行った会議の際には、私が大学側と直接会場交渉をしたこ ともあるが、その時にもルートがないため間に入る人という中国ビジネスでよく見られる人
  • 4. を介した。中国人といえども何のコネクションもないエンジニアが主体であるコミュニティ ー側が動くのは難しいのである。 こういった、この国独特のスタンダードがある中で、政府が関係しないイベントで中国人エ ンジニアが日本人の話を聞くために300数十名が参集する IT イベントは他に例がないで あろう。 300 数十名の中で、今回日本人は、KEMBO 社から佐々木 CTO と小枝氏の 2 名、上海のフ リーパーパー BROS 氏から大橋氏というわずか 3 名であった。 平日であることもあるであろうが、 開催に従って日本人比率が下がっている傾向は気になる。 また、スポンサーシップも今回は完全に中国企業と米国企業のみに止まったのは、Ruby の国際化を示すとともに、日本企業としてはこれだけ感度の高いエンジニアが集まる会議に PR する機会を大きく失っていると言える。 中国の主要都市にエンジニアを分散させ、 米国本 社と毎日英語による意思疎通を Skype で数時間もとりながらプロジェクトを進めている米国 企業 I ん社と比べると、日本企業の取り組みは残念である。