ODA卒業国となるフィリピンのインフラ整備で日本にできること
マニラ・湾岸部。フィリピンではPPPの法制度が整っている(写真:Mike Gonzalez (TheCoffee), CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons)

ODA卒業国となるフィリピンのインフラ整備で日本にできること

少し前の話ですが、6月16日から6月20日まで、フィリピン・PPPセンター(Public-Private Partnership Center)の 幹部が来日しました。PPPセンターとは、フィリピン政府がPPPの事業化推進を目的に設立した財務省直下の政府機関です。

私が理事を務める一般社団法人PPP推進支援機構(OPPS)は日本企業によるフィリピンでのインフラPPPの早期事業化を目指し、2023年5月にPPPセンターとMOU(基本合意書)を締結しました。今回の来日は、OPPSが主催した政府系機関と日本企業との会合に参加することが主な目的でした。

PPP Center, OPPS Sign MoU to Promote PPP Investment and Cooperation for Sustainable Economic Growth

一般社団法人PPP推進支援機構

フィリピンに対する日本の支援は、これまでODA(政府開発援助)が中心でした。もっとも、フィリピンでは経済成長が続いており、3年後にはODAの対象国ではなくなる見込み。タイやマレーシアと同様に、ODA卒業国となるわけです。

また、フィリピン政府はインフラ整備を通じた経済成長のため、政府資金やODAに加えてPPPを重視する方針を2010年に打ち出しています。民間セクターの資金を活用するPPPを活用すれば、政府予算の制約にとらわれず、インフラ整備が可能になるからです。

そしてODAの対象から外れることが目前に迫る中、フィリピン政府はPPPを通じて日本政府との連携を継続しようとしており、そのためにPPPセンターの幹部が来日したということです。

日本としても、政府間連携が疎遠になりつつあるタイやマレーシアの二の舞いにならぬよう関係を維持することは重要です。今後、ODA卒業国となるインドネシアやベトナムでも同様の施策が求められると思います。

フィリピンの都市鉄道をPPPで整備するには

今回の会合では、主に鉄道分野での連携が話し合われました。フィリピンはPPPに関する法制度がかなり整備されており、PPPを通じた空港、道路、水道や文教施設などのインフラ整備は既に始まっています。法制度については、日本を含むASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも進んでいると言ってもいいと思います。

実際、空港や高速道路、水環境などのインフラはサンミゲルをはじめとした財閥企業が民間コンソーシアムを主導し、投資や運営を手がけています。その中で、鉄道分野、特に都市における鉄道整備については手つかずのため、この分野におけるPPPでの連携が可能かどうか、議論が交わされました。

ここから先は私見になりますが、フィリピンの都市鉄道をPPPで整備する場合、政府による公共投資とPPPの組み合わせになるだろうと思います。

例えば、線路や車両のようなインフラ部分は政府が公共投資、あるいはODAで整備し、実際の鉄道の運営は民間コンソーシアムを募り、民間が自身の資金とノウハウを活用して鉄道事業を手がけるという上下分離の形です。インフラ整備と運営を一体としたコンセッション型のPPP事業だと連続性によるメリットは出ますが、PPP事業者の長期にわたる資金回収のリスクは高まります。

その際には、PPPプロジェクトの事業収支を最適化するため、商業施設の誘致など駅を含む周辺環境の整備も大きなポイントになります。この部分は日本の鉄道事業者が得意なところでしょう。

また、日本の鉄道事業者は土地の収用だけでなく、沿線開発によって周辺地域の活性化を図り、時間をかけて沿線価値の向上を図ってきたという歴史があります。こうしたビジネスモデルが海外で通用するかどうかは課題も多いかもしれません。

新たな交通システムとして脱炭素という観点から、水素を活用した車両の導入も、大きな可能性を秘めています。日立やJR東日本など鉄道関連の企業を訪問したフィリピンPPPセンターの方々も、強い関心を示していました。

フィリピンやインドネシアのように、都市への人口集中が課題になっているASEAN諸国では自動車の渋滞が大きな社会課題になっています。この課題を解決する一つの手段は日本が得意とする多様性のある都市交通の整備。そこにCO2の排出削減を絡めれば、さらに価値のあるプロジェクトになります。実現に向けたハードルは決して低くはありませんが、フィリピンでの成功モデルをASEANに展開できれば最高ですね。


林崎 代表

林崎経営管理事務所 - 代表

2ヶ月前

インドネシア🇮🇩の高速鉄道建設の顛末が気になります。 土壇場でC国へ。開業大幅遅延。その後の報道がありませんので。

コメントを閲覧または追加するには、サインインしてください