SlideShare a Scribd company logo
On
“Designing Interfaces”
2014-06-15
Noriyo Asano
noriyo@iaspectrum.net
UX ?
「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という⾔言葉葉を
近頃よく⾒見見聞きするようになりました。
UXといわゆる普通の“体験”との違いとは何でしょうか。
それは、UXには利利⽤用する対象があるという点です。
つまりそこには、
何らかのツール/システム/テクノロジーが
必ず介在するのです。
たとえば…
⾳音楽を聴くという⾏行行為について考えてみましょう。
⾳音楽を聴くという⾏行行為はもともと
「U」が付かない「X」、純粋な「体験」であると思います。
何か⾳音楽を聴きながら、
「私は今、その曲を利利⽤用している」
とか
「私は⾳音楽ユーザーである」
などと思うことは、あまりないですよね。
昔々、すべての⾳音楽は「⽣生演奏されるもの」でした。
つまり、⾳音楽という形のないものを記録・再⽣生できる媒体
ー  レコード盤、磁気テープ、CD、MD  などなど  ―
が発明され、録⾳音技術というものが⽣生まれる前の時代のことです。
⽣生演奏しかない時代には
すべての⾳音楽体験は「X」であった。
しかし、録⾳音技術が⽣生まれたことにより
そのテクノロジーを利利⽤用するという「UX」が
⾳音楽体験の中に含まれるようになった。
たとえば、今では⾳音楽を聴くという「X」の中に、
Amazonで掘り出し物のCDを⾒見見つける
iTunesでせっせとプレイリストを作る
⾼高級ヘッドフォンで昔の⾳音源を聴き直す
そういうさまざまな「UX」が関わっています。
その時、⾳音楽を体験する⾃自分は、
AmazonというWebサービスのユーザー
iTunesというソフトウェアのユーザー
ヘッドフォンというハードウェアのユーザー
でもあるのです。
このように「UX」とは
さまざまな技術の誕⽣生と進化の中で
「U」なしの、よりプリミティブな「X」の中に現れ、
時の流流れと共にその構成要素として不不可⽋欠となりつつあるもの。
私はそんな⾵風に捉えています。
さて、近頃では…
こんな⾔言葉葉もいっぱい⽬目につきます。
UI ?
私たちは⽇日本語の「技術」ということばを
⼆二通りの意味で使うことがあります。
「○○社が開発した
  技術(Technology)は凄いね」
「このツールを使いこなすにはそれなりの
技術(Technical ability)が要るね」
技術を扱う私たちUI設計者は、常に
Technology
を意識識していますが
Technical Ability
の問題にはなかなか⼿手出しできません。
「技能」を向上させる啓発活動や教育といった領領域にまで
UI設計者が踏み込むことは
⾮非常に難しいのが現実であるからです。
Technology
でも、この両者が歩み寄ってこそ
ユーザーインターフェースは
その真価を発揮するのです。
Technical ability
テクノロジーを追求するだけでなく
ユーザーの技能を引き出すこと。
それが、UI設計者に求められるのではないでしょうか。
ユーザーの技能を理理解するために
⾏行行動経済学の「⼆二重プロセスモデル」を⾒見見てみましょう。
⼈人間は何かを判断する時、実は2段階の処理理をしているという考え⽅方です。
システム1
(直感)による判断が
正しいか?
システム2
(推論論)による判断が
そのエラーを
正せるか?
正解! 不不正解…
Yes
Yes
No
No
問題
ユーザーの技能は、技術的なスキルだけでなく
このような判断能⼒力力によっても⼤大きく左右されます。
操作のたびにいちいちシステム2の処理理を経由させられるUIは
たとえスキルの⾼高いユーザーでも使いにくいものになってしまいます。
ユーザーの技能を⾼高めるには
システム1のエラー発⽣生率率率をできるだけ抑えたい。
つまり、素早く反射的に、難しく考えずに操作できるような
いわゆる“透明なインターフェース”を作ることが重要になります。
システム1(直感) システム2(推論論)
速い
並列列に処理理
無意識識的・⾃自動的
努⼒力力は要らない
連想に基づく
遅い
順番に処理理
管理理されている
努⼒力力を要する
規則に基づく
QWAN
そのようなUI設計を⾏行行う上で役⽴立立つのが
書籍『デザイニング・インターフェース』で⽰示されている
UIのデザインパターンです。
多くの⼈人にとっての使いやすさ・使い⼼心地のよさといったものには
何かしら根源的な共通の要素を⾒見見出すことができます。
建築家クリストファー・アレグザンダーはそれを
無名の質  /  QWAN
Quality Without A Name
と名付けました。
無名の質
(QWAN)
Alive
いきいきとした
Whole
全⼀一的な
Comfortable
⼼心地よい
Free
⾃自由な
Exact
正確な
Egoless
無我の
Eternal
永遠の
無名の質は本来ことばでは表せないものだが
そこには7つの特性を⾒見見出すことができる。
それを実現し、かつ再現可能にするのが、パターン⾔言語である。
アレグザンダーは、そう考えました。
デザインパターンは、いわば単語のようなものです。
誰かとコミュニケーションする時に
わずか⼀一つの単語で何かを伝えるのが難しいのと同じで、
個々のデザインパターンも単独で存⽴立立するものではありません。
単語が集まって⽂文章になるように
どのパターンも互いに組み合わせてこそ
その真価を発揮するのです。
あなたが作りたいUIを実現できそうなパターンを集め、
それらをうまく組み合わせて形にすること。
それは、あなた⾃自⾝身のパターン⾔言語を⽣生み出すということです。
そのような⼯工程を経て実体化されたUIには
きっといくばくかの「無名の質」が備わっているはずです。
「無名の質」を備えたUIは、
それ⾃自体が絶賛の的になることはないかもしれません。
でも、それでよいのではないでしょうか。
UIを操作すること⾃自体がUXの核⼼心である。
そんなケースは、ごく限られているはずです。
ある体験の中に何らかのUXが関わっているとして
さらにそのUXの中で利利⽤用されるUIの役割とは、
本来の体験における⽬目的の達成を決して邪魔することなく
いわば“⿊黒⼦子”のように助けること。
そんな⾵風に⾔言ってもよいかもしれません。
パターンを知り、活⽤用することは、
“ワンパターン”なUIをデザインすることとは違うのです。
さまざまなパターンを学ぶことで
あなた⾃自⾝身のパターン⾔言語を作り上げる⼒力力を
⾝身につけること。
それが、私たちのUIデザインをより豊かに、
実り多きものにしてくれると、
私は考えます。
Thank you.
I hope you enjoy designing interfaces.
Jenifer Tidwell 著 / 浅野  紀予  訳
『デザイニング・インターフェース(第2版)― パターンによる実践的インタラクションデザイン』
http://www.amazon.co.jp/dp/4873115310/

More Related Content

PDF
Business ICT seminar #43 Keynote Presentation
PDF
World IA Day 2017 Tokyo opening remarks
PDF
UX-Sapporo x CSS Nite "Hypothesis-based Design within UX Design"
PDF
これから求められる自社メディアの最適化・効果分析について
PDF
日本デザイン学会 第61回 春季研究発表 モバイルデザインにおける情報アーキテクチャパターン
PDF
Human Agent Interaction and Information Architecture at HAI2016
PDF
”サポートから始めるソーシャルCRM" netyear seminar 20101008
PDF
TC x IA "UX Design" Technical Communication Symposium 2012 Tokyo
Business ICT seminar #43 Keynote Presentation
World IA Day 2017 Tokyo opening remarks
UX-Sapporo x CSS Nite "Hypothesis-based Design within UX Design"
これから求められる自社メディアの最適化・効果分析について
日本デザイン学会 第61回 春季研究発表 モバイルデザインにおける情報アーキテクチャパターン
Human Agent Interaction and Information Architecture at HAI2016
”サポートから始めるソーシャルCRM" netyear seminar 20101008
TC x IA "UX Design" Technical Communication Symposium 2012 Tokyo

Viewers also liked (17)

PDF
Beyond Mobile IA Thinking at Goodpatch LT
PPTX
2013.12.06開催 Google アナリティクス プレミアム導入検討・活用セミナー ~マーケティングプラットフォームとしての可能性を考える~
PDF
”FaceBookと企業サイト" netyear seminar 20101008
PDF
「ソーシャルメディアがもたらす変化と企業戦略 ~ビジネスチャンスを活かす組織づくり~」
PDF
「地域がメディアを持つ時代」~地域共創メディア開発への挑戦~
PDF
”Facebookと企業の上手な付き合い方について" netyeargroup seminar 20110114
PDF
成果を出すデジタル化支援とは
PDF
ネットイヤーグループ×レスポンシス共催 米国最新事例を紹介!利益が30%向上した次世代のデジタルコミュニケーションの実践とは?
PDF
20110712中国ecセミナー
PDF
Scala ActiveRecord
PDF
Scala in Model-Driven development for Apparel Cloud Platform
PPTX
20170215 NPS導入のSTEPと成功に導くアプローチとは
PDF
World IA Day 2017 Tokyo
PDF
IDEALIZE YOU
PDF
Lead the webmasters to future with "IA Thinking" for UX Design
PDF
WebStormでできること
PDF
オムニチャネルとは - 顧客体験からすべてが始まる -
Beyond Mobile IA Thinking at Goodpatch LT
2013.12.06開催 Google アナリティクス プレミアム導入検討・活用セミナー ~マーケティングプラットフォームとしての可能性を考える~
”FaceBookと企業サイト" netyear seminar 20101008
「ソーシャルメディアがもたらす変化と企業戦略 ~ビジネスチャンスを活かす組織づくり~」
「地域がメディアを持つ時代」~地域共創メディア開発への挑戦~
”Facebookと企業の上手な付き合い方について" netyeargroup seminar 20110114
成果を出すデジタル化支援とは
ネットイヤーグループ×レスポンシス共催 米国最新事例を紹介!利益が30%向上した次世代のデジタルコミュニケーションの実践とは?
20110712中国ecセミナー
Scala ActiveRecord
Scala in Model-Driven development for Apparel Cloud Platform
20170215 NPS導入のSTEPと成功に導くアプローチとは
World IA Day 2017 Tokyo
IDEALIZE YOU
Lead the webmasters to future with "IA Thinking" for UX Design
WebStormでできること
オムニチャネルとは - 顧客体験からすべてが始まる -
Ad

Similar to 訳書『デザイニング・インターフェース』について (20)

PDF
『デザイニング・インターフェース』読書会資料
PDF
UXデザインの為のIA(情報アーキテクチャ)
PDF
Designing UX
PDF
UIデザインとUXの超基礎「UI Design & UX for ENGINEER」
PDF
はじめてのUXとUIの話
PDF
ユーザーエクスペリエンスの分解
PPTX
Overview of User Interfaces
PDF
Jumvo 2.0 における デザイナーとエンジニアの連携
PDF
UX / UIデザインって何?
PDF
UXD教育の実態と課題
PDF
[UX]は投げ捨てろ!
PDF
よりよいサイトやアプリを作るための、情報設計 坂本 貴史
PDF
UXとUXのためのデザインのはなし (20130824 使いたくなるUIをつくる!フロントエンド勉強会)
PDF
UI/UXなUXのお話
PDF
UXの考え方とアプローチ
PDF
1222_ProconLT
PDF
“UI/UX”?~恥をかかないための15分UXD入門
PDF
人間の成長とユーザエクスペリエンス
PDF
Designing UX Development
PDF
UXと成果物を繋げる糸口
『デザイニング・インターフェース』読書会資料
UXデザインの為のIA(情報アーキテクチャ)
Designing UX
UIデザインとUXの超基礎「UI Design & UX for ENGINEER」
はじめてのUXとUIの話
ユーザーエクスペリエンスの分解
Overview of User Interfaces
Jumvo 2.0 における デザイナーとエンジニアの連携
UX / UIデザインって何?
UXD教育の実態と課題
[UX]は投げ捨てろ!
よりよいサイトやアプリを作るための、情報設計 坂本 貴史
UXとUXのためのデザインのはなし (20130824 使いたくなるUIをつくる!フロントエンド勉強会)
UI/UXなUXのお話
UXの考え方とアプローチ
1222_ProconLT
“UI/UX”?~恥をかかないための15分UXD入門
人間の成長とユーザエクスペリエンス
Designing UX Development
UXと成果物を繋げる糸口
Ad

訳書『デザイニング・インターフェース』について