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The Coming-of-Age of Software Architecture Research Mary Shaw (Proceedings of ICSE’01) 紹介者 :  佐藤匡剛 MOGRA DESIGN, Ltd. [email_address]
もくじ 導入 ソフトウェア技術の成熟モデル ソフトウェアアーキテクチャの成長段階 ソフトウェア工学研究のパラダイム 来るべき研究
I.  導入 ソフトウェアアーキテクチャは比較的若い研究領域 その成熟度を計るために、研究プロジェクトの設計/実行方法に注目 「 Redwine&Riddle の成熟モデル」に 学会や教育機関 の視点を追加 成熟モデルは、研究を評価するフレームワークを提供 今後の研究課題を明らかに
II.  ソフトウェア技術の成熟モデル ひとつの技術が普及するのに 15-20 年 6 つの段階 基礎研究 概念の形成 発展と拡張 専門内での広がり 専門外での広がり 普及
基礎研究 基礎的なアイデアや概念を調査する 問題に初めて構造を与える 研究の核心となる問題を構成する
概念の形成 アイデアを非形式的に広める 研究コミュニティを発達させる 関連するアイデアを収集する 特定の部分的問題に解を提出する 【抽象データ型/情報隠蔽の例】 Parnas による「情報隠蔽」の形成(’ 72 )
発展と拡張 技術の実験的に適用する 根底にあるアイデアを明らかにする アプローチを一般化する 【抽象データ型/情報隠蔽の例】 抽象データ型をもつ言語の登場(’ 75 、’ 76 )
専門内での広がり 別領域へアプローチを広げる 現実の問題に技術を適用する 技術を安定化させる 教材を増やす 結果において価値を示す 【抽象データ型/情報隠蔽の例】 主要な著作や多くの新言語( CLU (’ 81 )) での採用
専門外での広がり 「専門内での広まり」と同様だが、専門外の人々も対象に 技術の価値や適用可能性について、実質的な証拠を示す 【抽象データ型/情報隠蔽の例】 他の技術での登場( Affirm プログラム検証システム(’ 80 ))
普及 製品化、商用レベルの技術を発達させる 技術を商品化し、市場を作る ユーザコミュニティを広げる
学会や教育機関の視点 ポジションペーパー、ワークショップ、会議での発表 会議や学会誌での発表 大きな会議でのその技術に関する特設部門  (track) その技術についての会議の登場 研究結果をまとめた書籍の出版 大学講座、生涯学習講座、標準の登場
III.  ソフトウェアアーキテクチャの成長段階 この分野の成長具合を測る方法 論文の被参照数に基づいた粗い見積り ResearchIndex データベースを利用( 1990-2000 ) 2000 年時点で被参照数の高い論文/書籍をピックアップ
急激な被参照数の増加 : 91 年、 94 年 上位 24 論文 : 90-98 年の間 書籍 : 4 冊( 95-98 ) 特定領域のアーキテクチャ : 8 本( 90-95 ) サーベイ、モデル : 7 本( 92-95 ) 形式化 : 3 本( 93-96 ) アーキテクチャ記述言語 : 1 本( 95 ) 逆構築 : 1 本( 97 )
基礎研究 80 年代よりシステムの構造に注目 オシロスコープ(’ 89 ) ミサイル制御(’ 92 ) ソフトウェア構造のカタログ化 pipe-filter, repository, implicit invocation, cooperating processes
概念の形成 基礎研究の洗練( 90 年代中頃) アーキテクチャ記述言語( ADL ) Aesop, C2, Darwin, Meta-H, Rapide, UniCon, Wright 形式化 分類
発展と拡張 近年は、初期の成果の統合と洗練に ACME アーキテクチャ交換言語(’ 97 ) ADL 間の情報交換のフレームワークを提供 分類学の洗練(’ 97 、’ 00 ) 学会誌や会議の充実 Trans. on SE での特集(’ 95 ) ICSE での特設部門(’ 00 ) ICSE での 4 つのセッション(’ 01 ) 独立した会議( Working IEEE/IFIP Conference on Software Architecture )(’ 00 )
専門内での広がり 設計ガイドとしてのアーキテクチャ様式の利用(非形式的) 実際のシステム設計への形式的分析の成果 分散シミュレーションのための高レベルアーキテクチャの分析(’ 98 ) 書籍(研究成果を実務へ適用) Bass ら『 Software Architecture in Practice 』(’ 98 ) Hofmeister ら『 Applied software architecture 』(‘ 99 )
専門外での広がり 二つの統一技術が成熟 UML (’ 98 ) いくつかの表記法を統一 体系的な適用法の開発 分析結果とコードとの架け橋はまだ SEI’s Architecture Tradeoff Analysis Method (’ 99 ) 属性、および属性間の相互作用の分析を支援
普及 製品レベルの技術の指標は 標準の存在 コンポーネントの標準( COM, CORBA ) インタフェースの標準( XML ) アーキテクチャよりはコンポーネントへの関心 IEEE 標準によるベストプラクティスの体系化の試み(’ 00 )
現在の状況 現在の状況 「発展と拡張」の時期 「強化と探究」は始まったばかり 概念やツールは実用化されつつある 技術はまだ未成熟 残された研究課題 様式 、 形式化 、 設計技術 、 ツール の有効範囲を示すこと
IV.  ソフトウェア工学研究のパラダイム 研究の設定 どんな問いを立てるか? 研究アプローチと成果 どんな方法を採って、どんな成果を出すか? 成果検証の技術 研究成果の信頼性をどのように評価するか? 研究戦略の選択
研究設定の分類 実現可能性 X は存在するか、 X は何か? X の実現は可能か? 【アーキテクチャ研究の例】 記述可能性や自動コード生成可能性を示した、初期の ADL 研究 特徴付け X の重要な特徴は何か、何に似ているか? X にはどんな変種があるか、互いにどんな関連があるか? 【アーキテクチャ研究の例】 現象と用語を特徴付けた初期のモデル研究
方法/手段 どうやって X を実現するか? どの実現方法がより良いか、どうやって自動化できるか? 【アーキテクチャ研究の例】 特定領域のシステムを設計/実装する方法の研究 一般化 X ならば常に Y か? X が与えられたとき、 Y は何になるか? 【アーキテクチャ研究の例】 様式の分類学、パターン化
選択 X か Y かをどうやって決定するか? 【アーキテクチャ研究の例】 システム構造の選択を支援するツールの研究
アプローチと成果物の分類 質的/記述的モデル 実世界についての注目すべき観察の報告 現実の例から一般化 問題領域の構築、正しい問いの形成 システムやその開発の分析 【アーキテクチャ研究の例】 初期のアーキテクチャ・モデル/パターン 技術 ある課題を達成する新しい方法の発明 選択肢の中から一つを選ぶ方法の開発 【アーキテクチャ研究の例】 製品ライン/特定領域アーキテクチャ、 UML
システム システムの実現 【アーキテクチャ研究の例】 ADL 経験的な予測モデル 観察データに基づく予測モデルの形成 分析モデル 形式的分析のための数学的/記号的モデルの形成 【アーキテクチャ研究の例】 HLA 仕様、 COM の矛盾分析
研究成果の正当化の技術 成果がどれだけの科学的信頼性をもつものか示す必要がある Brooks による分類(’ 88 ) Findings  :  科学的根拠をもつ真実 Observations  :  現実の現象からの報告 Rules-of-thumbs  :  ある著者による、定量的根拠のない一般化
Shaw による正当化技術の分類 説得 [ 対象 ]  技術、設計、例題 よく熟考した結果、〜という確信に至った 実装 [ 対象 ]  システム、技術 これが〜を実現するシステムの試作である
見積り [ 対象 ]  記述的/質的/実験的定量モデル 基準に基づいて、対象を〜のように見積もることができる 分析 [ 対象 ]  分析的形式モデル、実験的予測モデル モデルを元に、論理的またはシミュレーションとして〜が導かれる
経験 [ 対象 ]  質的/記述的モデル、判断の原則、実験的予測モデル 経験と観察から、〜の結論を報告する
よくあるダメな論文 実践を改善する、新技術を提案する、技術を支援するツールを実装する論文 実際に改善されるという証拠が示されない 新技術を提案して、玩具の例題を解き、貢献したと主張する論文 現実の問題で全く役に立たない
研究戦略の選択 研究戦略は以下の3つからなる 研究設定 研究アプローチ/成果 成果の正当化技術 研究領域の成長段階が変われば、求められる研究戦略も変わる 技術の実用化の段階 ⇒ より形式的な分析、有効性のシビアな評価
この論文の位置付け この論文の主張そのものが、 Brooks の  rules of thumb   に相当。 あくまで、さらなる批判や洗練を待つ性質のもの
V.  来るべき研究 「基礎研究」「概念の形成」 ⇒ 「発展と拡張」期へ 有効なアイデアの提出だけでなく、実際に有効であることを示す研究が必要 (ソフトウェア工学全体の話として)研究パラダイムの欠如 研究モデルへの意識 研究成果の正当な評価方法 研究プロジェクト/論文の正当な評価

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