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2017.2.24 外傷性重症出血患者に対するトラネキサム酸の有効性
トラネキサム酸はアミノ酸リジンの合成誘導体で
あり、プラスミノーゲンのリジン結合部を切断する
ことにより線維素溶解を抑制し、止血効果を発揮
する。
待機手術におけるトラネキサム酸の効果をみた無作為化
試験のシステマティックレビュー(患者数3836例を含む
53試験)ではトラネキサム酸により輸血の必要性が1/3
低下し、死亡リスクの低下も認めた。
Henry DA, Carless PA, Moxey AJ, et al. Anti- fibrinolytic use
for minimising perioperative allogeneic blood transfusion.
Cochrane Database Syst Rev 2007; 4: CD001886.
本研究では、重症出血あるいはそのリスクを有する外傷患者
を対象に、トラネキサム酸の早期短期間投与の有効性を検証
した。
40カ国、274施設において実施
登録基準
重症出血(収縮期血圧<90mmHg 、または心拍数>110回/分、
またはその両方)、もしくは重症出血のリスクを有すると判断され
た成人外傷患者で、受傷後8時間以内の患者。
担当医がトラネキサム酸を投与すべきか否かの確信がない場合、その患者は
対象に含まれた。担当医が明らかにトラネキサム酸の適応があると判断した
症例は、無作為化割付の対象にはならず、同様に、トラネキサム酸治療が明
らかに禁忌とみなされる症例も対象外となった。
・トラネキサム酸群とプラセボ群への割り付けはコンピュータ化
無作為化システムを用いて行われた。
・患者はトラネキサム酸(初回負荷量1gのトラネキサム酸を
10分間で投与後、更に1gを8時間かけて持続点滴)または、
プラセボ(0.9%生理食塩水、同様の方法で投与)のいずれか
の投与を受けた。
Primary outcome
受傷後4週間以内の在院死
死因は出血、血管閉塞イベント(心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓)、
多臓器不全、頭部外傷、その他の分類に従って記録された
Secondary outcome
血管閉塞イベント(心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓、深部静脈血栓
症)、外科手術(脳外科、胸部、腹部、骨盤外科)、輸血治療の
有無と輸血製剤の単位数、依存度(退院時、または継続入院
中であれば第28病日時点)
サブグループ解析
(1)受傷後の推定経過時間(<1、1-3、3-8h)
(2)収縮期血圧(≦75、76-89、≧90mmHg )
(3)GCS(3-8、9-12、13-15)
(4)外傷分類(貫通傷のみ、もしくは鈍的外傷;これは鈍的外傷
と貫通傷の混合傷も含む)
・ITT解析
・各outcomeに対して相対危険度 95%信頼区間 両側P値
(サブグループ解析は99%信頼区間)
・サブグループの群間差の検定にはχ2検定
2017.2.24 外傷性重症出血患者に対するトラネキサム酸の有効性
2017.2.24 外傷性重症出血患者に対するトラネキサム酸の有効性
Figure2:Mortality by days from randomisation
3076例(15.3%)が死亡し、うち1086例(35.3%)は無作為化割付当日に死亡した。
出血による死亡は計1063例で、うち637例(59.9%)は割付け当日であった。
Table2:Death by cause
Table3:Vascular occlusive events, need for transfusion and surgery, and level of dependency
Figure3:All-cause mortality by subgroups
本研究結果より、重症出血、あるいはそのリスクを有する外傷
患者への早期トラネキサム酸投与は、血管閉塞イベント(致死
性または非致死性)の明らな増加を認めずに、出血死のリスク
を減小させることが証明された。
また、全原因による死亡リスクも、トラネキサム酸群で有意に減
少した。
緊急の状況では、外傷患者の体重特定は困難なこともあり、固定量
の投与が現実的である。従って、線溶亢進を抑制し、止血効果を発
揮すると証明されている範囲内で固定量が選択された。
小柄な患者(<50kg)でも副作用なく使用できる量が選択されたため、
より高容量のトラネキサム酸がより有効な治療効果を有するか否か
に関しては、論議の余地があり、更なる研究が必要である。
・本研究において外傷出血の診断は困難なことがあり、対象患
者の中には無作為化の時点で出血を伴わない例があった可能
性がある。
・試験の対象者基準は臨床的であり、検査結果に基づくもので
はなかった。
外傷性出血の状況下では、輸液蘇生などの治療手段を考慮
すると同時に、出血の有無を確認するために多様な臨床兆候
を評価する必要がある。よって臨床に基づいた対象者基準の
使用は適切であると言える。
・輸血の必要性や投与された輸血量に実質的な差は認めな
かったが、トラネキサム酸投与の結果生存した患者は、輸血を
受ける機会もより多かったと考えられ、トラネキサム酸の有効
性が低く見積られた可能性がある。
・トラネキサム酸投与群における非致死性血管閉塞イベントの
増加は見られなかったが、これに関する評価の正確性は低く、
リスク増加の可能性を完全に除外することは出来ない。
重症外傷患者では早期の凝固異常の頻度は高く、線溶亢進が
これらの血液凝固異常のうちで一般的に見られる特徴であると
する研究がある。トラネキサム酸のような抗線維素溶解薬はそ
の機序に対して効力を発揮していると考えられる。しかしながら、
本試験において線維素溶解活性の測定は実施しておらず、トラ
ネキサム酸が他の作用機序ではなく、線維素溶解を弱めること
により効果発現をするとは断言できない。出血外傷患者におけ
るトラネキサム酸の作用機序に関する今後の研究が必要といえ
る。
本研究結果より、早期トラネキサム酸投与は重症出血、
あるいはそのリスクを有する外傷患者に対し、血管閉
塞イベント(致死性または非致死性)の明らな増加を
認めずに、出血死のリスクを減小させることが証明さ
れた。
アドナ(カルバゾクロム)の止血効果ついてのエビデン
スは未だ明らかとなっていない。
今後アドナとプラセボの比較試験またはトランサミンと
トランサミン+アドナの比較試験の実施が期待される。

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2017.2.24 外傷性重症出血患者に対するトラネキサム酸の有効性

Editor's Notes

  • #4: (RR 0.61、95%CI 0.54-0.70)  (0.61、0.32-1.12 )
  • #13: ・複合イベントを経験したのはエプレレノン群の18.3%とプラセボ群の25.9%で、調整後ハザード比は0.63(95%信頼区間0.54-0.74、P<0.001)。 複合イベントを1年間に1件減らすための治療必要数は19(15-27)になった。
  • #15: ・複合イベントを経験したのはエプレレノン群の18.3%とプラセボ群の25.9%で、調整後ハザード比は0.63(95%信頼区間0.54-0.74、P<0.001)。 複合イベントを1年間に1件減らすための治療必要数は19(15-27)になった。