人工市場による市場制度の設計
2023年度 金融レジリエンス情報学 第2回
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
運用調査本部 ファンドマネージャー 兼 上席研究員
水田孝信
本発表資料はスパークス・アセット・マネジメント株式会社の公式見解を表すものではありません.すべては個人的見解であります.
2008年の金融危機以降、伝統的な経済学では複雑系であったこの金融危機を分析できていないと批判し、金融・経済分野におけるエージェントシミュレーションである人工市場や人工経済などの複雑系科学をもっと活用すべきだという主張があらわれた。人工市場をもっと活用し伝統的な経済学の弱点を補完すべきであることは確かだと思われる。
今回は、人工市場研究を簡単にレビューしたあと、人工市場による市場制度の設計の研究を呼値変更という実際に行われた制度変更の事例を交えながら紹介する。金融市場は人類の発展に必要不可欠な道具である。McMillan[2002]が述べたように、「物理学者や生物学者が研究してきたシステムと同じくらい複雑で高度なもの」であるうえに、「うまく設計されたときのみ、うまく機能する」、まさに複雑系である。人工市場は、これまでにない制度によってどういうことが”起こりえるか”を調べ“あり得る”メカニズムを見つけておく、”あり得る”副作用を見つけておく、という貢献ができる。特に、喫緊の課題として規制やルールを議論している実務家からの注目が高い。
人工市場の貢献はまだ始まったばかりで、研究者が全然足りていない。この分野は社会への重要な貢献ができることは間違いないので、啓蒙活動を続けていきたい。今後、もっと多くの金融市場の規制やルールが人工市場や人工社会で扱えるようになり、うまく金融市場を設計することに貢献し、社会の発展につながっていけばと願っています。