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エンタープライズアジャイルの
課題と解決へのアプローチ
〜問題領域を俯瞰する視点と、自社に適した取り組み発見のヒント
2024/11/14
グロース・アーキテクチャ&チームス株式会社
自己紹介
鈴木雄介
• Graat(グラーツ)
» 正式名称:グロース・アーキテクチャ&チームス(株)
» 代表取締役社長
• (株)アイムデジタルラボ
» 三越伊勢丹グループ DX推進機能子会社
» 取締役
• 日本Javaユーザーグループ
• SNS
» @yusuke_arclamp
» http://arclamp.hatenablog.com/
1
はじめに
エンタープライズアジャイルとは?
• 2つの解釈
»大規模システムを複数チームで開発する
→大規模アジャイル
»ウォーターフォールが根付いた組織で実践するアジャイル
→エンタープライズアジャイル
• エンタープライズアジャイルの適用に向けて
»会社の組織、ルール、文化がウォーターフォールを前提にしている
と、アジャイルの適用においていろいろな課題が多く出てくる
2
はじめに
アジャイルの効果
• アジャイル導入済み企業によると
»1位:優先順位の変更
»2位:見える化
»3位:ビジネスとITの整合
▸4位:開発スピード
▸5位:生産性
▸6位:チームのモチベーション
3
15th State of Agile Report
https://digital.ai/press-releases/15th-state-of-agile-report-shows-notable-rise-in-agile-adoption-across-the/
あなたの組織で効果を発揮してますか?
• 確認ポイント
»適切に優先度は変更されているか?
»顧客に提供すべき価値と
作られた機能は整合しているか?
»良い成果物を作ることができるか?
• 効果を発揮しないなら、それはなぜ?
はじめに
4
アジャイルとは?
アジャイルとは?
スクラムを電車で理解する
• イベント会場の子供電車
»電車は定期的にホームを出発し、
1周したら帰ってくる
»ホームには子供が一列で並んでいる
»電車が来たら定員まで乗って出発
※次の電車が来るまでは並び替えOK
6
ホーム
アジャイルとは?
スクラムとの対応
• 電車の1周がスプリント
7
電車 スクラム用語 説明
子供 バックログ 案件そのもの
駅長 プロダクトオーナー 子供を優先順に並べる
運転士 開発者 子供を安全に送り届ける
運行管理者 スクラムマスター 安全な運行を管理する
補足
スクラム対応表
8
電車の説明 スクラム用語 説明
電車の運行 スプリント 繰り返し続ける作業期間。1ヶ月以内の決まった
長さ
出発ホーム プロダクトバックログ これからやりたいことを優先順に並べたリスト
の乗客 プロダクトバックログアイテム そのリストの1行
電車に乗る スプリントプランニング スプリントの開始時に、このスプリントでやる
ことを決めるイベント
電車 スプリントバックログ このスプリントで実施するタスクのリスト。
スプリントプランニングでプロダクトバックロ
グからアイテムを移動させてくる
の乗客 スプリントバックログアイテム そのリストの1行
切符を渡す バックログのリファインメント そのアイテムが作業開始できる状態か確認し、
作業開始できるように詳細化する
アジャイルとは?
スクラムの良さ
• 走っている電車はホームを気にしない
• 安全に変更を取り込むことができる
»「これからやりたいこと」と「今やるべきこ
と」が分離している
»ビジネス側は、その時点の優先順位でやるべ
きことを決めていい
»開発者は、目の前のタスクに集中し、チーム
を成熟させていく
9
9
案件F
案件C
案件D
案件E
案件F
案件C
案件D
案件E
案件F
案件E
案件D
案件G
成果
レビュー
開発者
ビジネス
(PO)
案件A
案件B
案件C
案件D
案件A
案件B
計画
ス
プ
リ
ン
ト
期
間
バックログ
案件F
案件D
案件E
案件G
アジャイルとは?
スクラムを安全に運行するには?
• 子供たちがルールを守ること
»乗りたい電車の出発時刻に間に合うように到着する
▸リリースしたいスプリントまでに要件を提示する
»電車に乗るための準備ができている
▸要件は開発可能な状態にまで明確になっている
»電車への飛び乗り・飛び降り禁止
▸無理やり案件を押し込まない
• それって親や周囲の大人たちの責任ですよね?
10
アジャイルとは?
なぜ、あなたの組織で
アジャイルは効果を発揮しないのか?
• チームの周辺がアジャイルを邪魔する
»組織の意思決定
»業務調整と基幹システム連携
»プロダクト構成とチーム編成
»品質保証
»中長期計画と予算管理
»成果の評価
11
アジャイルを邪魔するもの
アジャイルを邪魔するもの
組織の意思決定サイクル
• 大組織のプロダクトオーナーは決定できない
»良い悪いではなく、日本的意思決定モデルの影響
• 結果、社内の意思決定者との合意形成に時間がかかる
»稟議や経営会議での承認などがアジャイルのリズムと関係ない
»「遅れ」や「覆し」があるとリズムが崩れる
▸遅れ:次の部門長会議が再来週だから、その間、開発が進められない
▸覆し:あの部長はOKだったから進めたのに、他の部長でNGになった
13
アジャイルを邪魔するもの
業務調整と基幹システム連携
• 大組織DXでは業務部門との調整が必須
»顧客とITと「業務」のバランスが取れていないと運営できない
»業務チームは、既存の業務をなるべく変えたくない
• 大組織DXでは複数の基幹システムとの連携が必須
»価値があるデータは基幹システムに格納されている
▸顧客体験は複数の基幹システムにまたがる
»ウォーターフォールとタイミングが合わない
14
アジャイルを邪魔するもの
プロダクト構成とチーム編成
• コンウェイの法則
»組織が設計するシステムは、その組織のコミュニケーション構造を
反映する
• 過去の組織構造が反映されている
»現在のビジネスにはミスマッチ
• チームが増えるほど、チーム同士の話は大変になる
15
アジャイルを邪魔するもの
品質保証
• 開発が完了しないと品質保証プロセスが始まらない
»スプリントが完了して、次のスプリントで受入準備が始まる
»開発完了からリリースまでに時間がかかる
• リリースまでの手続きに時間がかかる
»N日前申請、リリース手順書の作成…
• テストの専門性が理解されていない
»結局、テストチームに丸投げ
16
アジャイルを邪魔するもの
中長期計画と予算管理
• 中長期計画でゴールとする機能が確定し、その機能の開発
に対して予算が承認される
»機能の完成(QCD遵守)をゴールとして計画されるとウォーターフ
ォール型になっていく
»「何をやるかわからない」ものに予算はつかない
»承認されないと、何もできない
• 請負契約か準委任契約か
»ソフトウェア資産にするか、経費にするか
17
アジャイルを邪魔するもの
成果の評価
• システムがもたらした成果をどう評価するか?
»機能の提供がゴールだと、機能がもたらす価値は評価されにくい
▸MVPから開始して、機能追加で価値を積み増している概念が理解されない
✓ MVP=実行可能な最小限の機能群
»成果はデータによって定量的に評価されるのか?
▸ITだけで成り立っているサービスでなければ、難しいところはある
▸評価するための機能を開発することは認められにくい
»社外ユーザーのシステムを社内の人が評価できるのか?
18
アジャイルを邪魔するもの
エンタープライズアジャイル
の問題領域
»組織の意思決定サイクル
»業務調整と基幹連携
»プロダクト構成とチーム編成
»アジャイルな品質保証
»中長期計画と予算管理
»データ駆動運営
19
アジャイルを推進する
アジャイルを推進する
前提
• チームに権限を与えて解決できるものではない
»既存事業や資産を最大活用するなら、既存組織にもリスペクトを
»組織を変える必要はあるが、破壊してはいけない
• 代表的な解決策
»①アジャイルのリズムを決める
»②サービスデザインに取り組む
»③DevOpsをちゃんとやる
»④プラットフォームを整える
21
アジャイルを推進する
①アジャイルのリズムを決める
• 経営とリンクしたアジャイルのリズムを定める
»リリースサイクルとリードタイムを合意する
▸スプリントは1−2週間でOK。大事なのは「要件を確定できる作業量」
▸組織がPOの決定を尊重しなくても、リズムは尊重する
22
種類 概要 リリースサイクル リードタイム
新機能 業務調整を含む新しい機能 3ヶ月/年4回 6-9ヶ月
改善 既存機能の改善や追加 1ヶ月/年12回 2-3ヶ月
保守 ちょっとした修正 1週間/年50回 2-3週間
緊急 障害対応 随時 ASAP
アジャイルを推進する
②サービスデザインに取り組む
• DXは顧客価値に注目する
»どのように価値を実現するのか?
• 顧客体験と業務とIT機能を同時に語る
»モデル化することで実現性の確認をする
»そのモデルを全ての部門で共有する
23
アジャイルを推進する
③DevOpsをちゃんとやる
• 開発者によるインフラと運用のセルフサービス化
»開発者がインフラ構築も運用作業をするようになる
▸これらの作業をするのにインフラ部門や運用部門と話す必要性がない
»自動化ツールの整備をするための仕事が発生する
▸インフラ構築、ビルド&デプロイ、スケール変更、監視&予測、障害復旧...
24
成果物
アプリ
Dev Ops 成果物
Dev
SRE
Ops
ツール
インフラ
アプリ
インフラ
DevOpsエンジニア
アジャイルを推進する
④プラットフォームを整える
• 新たな標準化の形
»ガバナンスを標準化することに価値がある
• 基幹システム連携の中継地点
»双方のさまざまなギャップを埋める
▸コミュニケーション、タイミング、データモデル…
• 段階的なモダナイズの場所
»基幹システムの機能を切り出して移行していく
25
DevOps層
共通データ層
API層
サービス
A
サービス
B …
基幹
システム
①
基幹
システム
②
…
アジャイルを推進する
組織で取り組むべきこと
• 解決策と問題領域
»①アジャイルのリズムを決める -
»②サービスデザインに取り組む -
»③DevOpsをちゃんとやる -
»④プラットフォームを整える –
• チームを取り巻く課題を組織
として解決することが大事
»いくらでもやるべきことはある
26
まとめ
まとめ
アジャイルは効果を発揮しているか?
• エンタープライズアジャイル
»=ウォーターフォールが根付いた組織で実践するアジャイル
• スクラムは子供電車
»走っている電車はホームを気にしない
»電車を安全に運行するには子供たちがルールを守ること
»それは親や周囲の大人たちの責任でもある
28
まとめ
エンタープライズアジャイルで
組織が取り組むべきもの
• 組織の意思決定サイクル
• 業務調整と基幹システム連携
• プロダクト構成とチーム編成
• アジャイルな品質保証
• 中長期計画と予算管理
• データ駆動運営
29
まとめ
組織でアジャイルを支援する
• チームだけでは解決できないので、
組織として取り組む
»①アジャイルのリズムを決める
»②サービスデザインに取り組む
»③DevOpsをちゃんとやる
»④プラットフォームを整える
• 組織内をアジャイルに繋ぐための様
々な手法
30
31
ITとチームの力を引き出し、
エンタープライズDXを推進する
https://www.graat.co.jp
提供:

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